ボロブドゥールの先駆的作品・パオン寺院

ユネスコの世界遺産にはボロブドゥール寺院”遺産群”として登録されている通り、ボロブドゥール寺院はその寺院群の一つであり、ボロブドゥールから東方向へ一直線上に繋がるパオン寺院とムンドゥ寺院もまた「ボロブドゥールの仏教寺院群」に含まれる世界遺産である。

パオン寺院とムンドゥ寺院がボロブドゥールの真東にあることから、当時はボロブドゥールを中心とした巨大な仏教複合構造物が展開していたという学説が学会内で一定の支持を集めているようだ。建造推定時期は8世紀末頃で、ボロブドゥールの先駆的な作品とされている。

ボロブドゥールが一応の完成を見た8世紀末から9世紀初頭以降、この地が宗教上の聖地として巡礼の対象であったとしたら、遠路遥々ボロブドゥールを目指した多くの信者が最後の数キロにパオンとムンドゥという二つの寺院に参拝し、さらにエロ川とプロゴ川の深い谷を下り川を渡り、宗教心を高揚させつつ聖地ボロブドゥールに到達したと想像される。いわば、聖地の玄関口的な位置づけの寺院である。ということで、ボロブドゥールを訪れたからにはパオン寺院・ムンドゥ寺院もセットで見ておきたいところ。

先に目指すのは手前にあるパオン寺院。 ボロブドゥールの駐車場でタクシーと合流。車に乗りこむ前に「Candi Pawon」と運転手に告げると、車の横に立っていた調子の良い男が「Follow Me(俺に着いて来い)」とかほざきだす。「スペシャルプライス10,000ルピア」とか言ってるけど、自分はタクシーをチャーターしてるし地図も持ってるのに、何が悲しくてあんたの有料先導サービスを頼まなければならないのだ?ウンザリする表情を押さえ、精一杯の愛想笑いをして「ノーサンキュー」とかわし、タクシーへと乗りこむ。無言で流したり曖昧な態度はYesと取られかねませんからね。思うがままノーサンキューと言ってやりましたよ。すると、どうでしょう。この男、いきなりバイクにまたがって、強引にタクシーの前を走って先導を始めやがった!!何この押し売り!!


オーラーイじゃねーよ。頼んでねーよ、先導。いや、寧ろ断っただろノーサンキューって。しかも、どちらかといえばノーサンキューと、ノーにアクセントを置いて言ったつもりだが。こんな野郎に金を払うのは嫌だったが、トラブルに巻き込まれても困るので、財布の中で異臭を放っていた手垢まみれの2,000ルピア札(20円弱)を強引に奴の手に握らせお引き取り願う。すると、不服そうな顔しながらもボロブドゥールの方面に走り去っていった。こんな輩に声をかけられたらノーサンキューだけじゃ不十分なようなので、ハッキリと「先導するんじゃねえ」と言ってやって下さい。


で、このパオン寺院、幹線道路からは少し外れた閑静な住宅地の真ん中にあり、建物そのものも小ぢんまりとしていて「ひっそり佇んでいる」という言い方がしっくりくるような寺院である。私以外に来訪者は無く、チケット売り場の職員も暇を持て余しているといった様子。


しかし、だからと言って存在感が薄いのかというと、そんなことは全然ない。高さ10m超の御堂の屋根の上には、中心となるミニチュア仏塔と、それより更に一回り小さな仏塔がそれを囲むようにして配置されていて、さながらミニチュア・ボロブドゥールと言った感じで異彩を放っている。

ひだり みぎ
シャイレーンドラ王朝のインドラ王の遺灰を埋めた霊廟という説が有力だそうだ。

ひだり みぎ
外壁のレリーフも実に精緻で見応えがある。こちらは左右側壁に刻まれた、しなやかなボディーラインが美しいターラ像。表面は風化して造りが甘くなってしまっている感はあるが、動感を感じさせる滑らかな曲線で描かれていて、柔和な表情に心が落ち着かされる。


こちらは天樹と飛天、そして半人半鳥キンナリ・キンナラのレリーフ。中央のもっさりした大脳みたいな物体が天界に咲く吉祥の樹木カルバタール。天樹の下には金貨がガッサリと仕込まれた金袋と天界に住む半人半鳥のキンラナ・キンナリーが描かれていて、空には天人が飛んでいます。飛天もキンナラも微妙に左右対称ではなく、それぞれに動きがあって美しい。仏教遺跡でありながら土着宗教的要素の濃いヒンドゥー教と文化的に融合しているのがよく分かる一枚のレリーフである。


遺跡回りも非常によく整備されているが、ゆっくりと古代のジャワ文明の世界に思いを馳せてる時に周囲の土産物屋がしつこく声をかけてくるのには幻滅してしまう。

ひだり みぎ
中にも入れるようになっているが、残念ながら内部には左右にカーラ付きの仏龕が残されているのみで、往時の仏像は残されていない。

【パオン寺院/Candi Pawon】
ボロブドゥールから東に1.5Km。
入場料はムンドゥ寺院と共通で3,300ルピア(≒30円)とボロブドゥールとは比較にならぬ良心的価格設定になっている。



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