続いてはイスタンブール考古学博物館へ。
世界でも十指に入る博物館だとトルコさんが自画自賛してるので、期待値は高いのだが果たして…。
世界でも十指に入るかはさておき、東西の十字路に栄えた全盛期のオスマン帝国の版図はメソポタミア、アラブ、エジプトという肥沃な三日月地帯も含んでいるので、ギリシャ・ローマ・ビザンティン時代の出土品だけでなく、シュメール、ヒッタイト、アッシリア、パルティアなど東西の貴重な美術品も多く収蔵されているのは確かでしょう。
元々は1891年にオスマン帝国の文化遺産を保護するための帝国博物館として勅令によって創立したという歴史もあってトプカプ宮殿の外庭という一等地にあるのだが、観光客で溢れ返っているトプカプ宮殿やアヤソフィアと違って訪問者は殆どいない。世界でも有数の博物館、やはり看板倒れだったか?
ただ、膨大な数の発掘品が収蔵されているのはやはり確かなよう。オスマン帝国が没落していった時代にイギリスやフランスによって貴重な遺産が略奪される姿に見かねたスルタンによる命令で、オスマンの威信をかけ各地からの出土品を収集して囲い込んできたみたいっす。
敷地内に入ってみると、建物の中に陳列し切れないのか、中庭にまで2千年前の貴重な遺産が規制線やガラスケースもなく無造作に置かれてましたw ゆるいなー、この感じ。まぁ遺産の国外散逸を防ぐという目的は果たせてるんで、これはこれでトルコ的には良いんすかねw
残念ながら考古学博物館の本館は改装中でしたが、敷地内には3つの博物館が共存しているようです。
考古学博物館(本館・分館)
古代オリエント美術館
イスラム装飾タイル博物館
考古学博物館のチケットで3つの博物館が楽しめるので、ちょこっとだけ得した気分になりますね。
古代オリエント美術館
古代オリエントというだけあって、アラビア半島やエジプト、メソポタミア、アナトリアからのシュメール、バベル、ヒッタイト文明など、イスラム以前の古代文化にかかわる展示品が中心。貴重な展示品も多いけど、床にゴロンと置かれてたりとラフな感じがまた堪らんっすねw
結構なお宝もあるんですけど、お宝をお宝と感じさせないあたりがトルコっす。古代オリエント美術を我らが遺産!とばかりにアピールして大事に展示する大英博物館やルーブル博物館とは大違い。
ちな、ルーブル博物館に展示されているオリエント美術の収蔵品リストはこちらのルーブル博物館公式ウェブサイトルーブル博物館公式ウェブサイトルーブル博物館公式ウェブサイトで確認できます。
古代オリエント博物館で最初に視界に入ったのは、古代アッシリア時代、アッシリア帝国の首都ニムルドで発掘されたティグラト・ピレセル3世の横顔。この二次元感とパンチパーマ感が古代メソポタミアっぽくて堪らんっす。
シリア北部のユーフラテス川の畔で見つかったアッシリア人の石碑。これは残虐行為で知られた恐怖のアッシリア人ですわ。めっちゃ強そうで悪そう。
更に時代を遡ってシュメール文明の遺産。イラクのアッシュール遺跡で見つかったシュメールの守護神・ラマッスとシャルマネセル3世の未完成の像。
そして、シュメールと言えばギルガメシュ。ギルガメシュと言えばギルガメッシュナイト。
こいつこそはギルガメシュ!?と思ったけど、こちらはアッシリアの御仁。ピレセル3世~シャルマネセル5世の時代の政府高官で、Bel Harran Beli Usurという方らしい。
いくらマイナーキャラクターの遺産とはいえ、2,700年前の貴重な出土品が床に適当に置かれてるのに驚きを禁じ得ません。
こちらはバベルの塔やユダヤ人の捕囚でお馴染みバビロンにあるイシュタル門の施釉タイルの像。お宝もんがゴロゴロと並んでます。
妙に写実的で商人のように腰の低いおっさんはシュメール人によるアダブ王朝の統治者。今にも動き出しそうなくらいリアルです。
メソポタミア文明だけでなく、エジプト文明もカバー。
古代エジプトといえばミイラ。木の箱の中に身体の一部分をミイラ化したものを入れ、セケルセケル鳥を上に載せる。こうすることで死人が不死になると信じられていたそうな。まさかトルコでミイラを見ることになろうとは。
紀元前13世紀にはエジプト新王国のラムセス2世がシリアに進出。ムワタリ2世率いる小アジアのヒッタイトと現シリア西部のカデシュで激突、史上初めて成文化された平和同盟条約が結ばれました。
条約は全18条。国境の明確化、領土不可侵、第三国から攻め入られた場合の相互軍事援助、政治的亡命者の引き渡しなどなど。エジプト側ではカルナック神殿にヒエログリフで刻まれた条約文が見つかり、ヒッタイト側では楔形文字で条約文が記された粘土板が当時のヒッタイトの首都で見つかってます。
これがその粘土板。お宝中のお宝なので、流石にこちらはガラスケースに納められてました。
『古より、神々はエジプトの王とハッティの大君との間に敵対関係を生じさせる事はしなかった。ところが、ハッティの大君、わが兄弟ムワタリの治世に、偉大なファラオ、ラムセス・メリアメンとの間に戦争があった。しかし、今日この日より、ハッティの大王ハットゥシリはラー神とセト神がエジプトとハッティの間に今後、永遠に戦いが起きないようにするために築いた条約に同意する。
我々の間に平和と友愛は永遠に守られるであろう。ハッティの子らとその子孫は偉大なファラオ、ラムセス・メリイアメンの子らとその子孫の間も平和であろう。なぜなら彼らも平和と友愛を守って生きているからである。』
エジプト側でもヒッタイト側でも記された条約の内容はほぼほぼ同じようですが、ヒッタイト側の文章では「エジプトが請うて講和に至った」と書かれ、エジプト側では逆のことが書かれているなど、互いに都合良く解釈された部分も散見されるそうなw
去年、韓国による日本製バルブへの反ダンピング課税に関するWTOの決定に対して日韓共に大々的に勝利宣言してましたが、どの国のどの時代でも為政者って本質的な部分は変わらないんすねw
イスラム・装飾タイル博物館
ここでは、セルジューク朝~オスマン帝国時代の陶器やタイルが年代や産地別に展示されています。乾いた土色の出土品ばかり見てきたので、タイルの色彩が艶やかに映ります。
キュタフヤ、イズニク、チャナッカレの陶磁器を中心に約2,000点が展示されていますが、博物館というにはやや規模が小さすぎますかね。
考古学博物館
考古学博物館のメインホールは改装中でしたが、一番奥の別館的な建物には入ることができました。ギリシャ、トラキア、ビザンツ、シリア、パレスチナあたりでの出土品をメインに展示しているようです。
暗がりの中に無造作に置かれた古代文明の権力者たちの石棺コレクションがいきなり目の前に広がり、お葬式会場のような独特の雰囲気。
お休みのところ失礼致します。精細な彫刻がびっしりと施された棺桶だけでなく、リュージュをしてるようなタイプの物も。何千年も前のものとは思えない程つるつるした棺で、かなーり不気味です。
棺の歴史に唸りながら奥へと進んでいくと、更に意味ありげな墓石が。
トルコ西部のアイドゥンで見つかった2世紀の剣闘士Mentor氏の墓石。
“私メンターは数々の名門スタジアムで皆を打ち破ってきた、そして、運命によって死を迎え、この墓に眠る”。
これだけ立派な墓石が遺されるわけなんで、ローマからやってきたスター剣闘士が遠征中に客死したとかなのかな。想像力が駆り立てられます。
トリポリで発見された2世紀の石棺。古代によくこんな精巧なものを作ったものだと感心しますわ。お目当てのアレキサンダー大王の棺や立像は改装中の建物中にあるらしくて見られなかったすが、それなりに楽しめました。
敷地内の土産物屋もなかなか内容が充実してました。ポストカードや栞も1枚40円程度と良心的な値付けですし、外の土産物屋で売ってるものよりクオリティが高かったです。
ソクラテス先生とエロスの夢の競演。ソクラテス時代のアテナイはトルコ関係ないだろ!という突っ込みは無し。
ヨーロッパ大陸とアジア大陸とに跨り、太古の昔から東西大国の影響を受け続けてきたトルコ。その考古学博物館だけあって内容は非常に充実してました。
古代ギリシア~ローマの古典美術から、メソポタミア、エジプト、アナトリア各地の遺跡で見つかった数千年前の発掘品まで、東西で見つかった様々なお宝を鑑賞できるのはトルコの博物館ならではじゃないですかね。人気無いみたいですが、個人的にはお勧めの博物館です。
【イスタンブール考古学博物館(Istanbul Archeology Museum)】
所在地:Cankurtaran, Alemdar Cad. Osman Hamdi Bey Yokusu Sok, Istanbul
電話:+90 212 520 77 40
入館料:50リラ(≒860円)
開館時間:09:00-20:00(4月~9月)、09:00-18:00(10月~3月)
休館日:月曜日
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