ロシア人作家による名作が充実 ロシア国立博物館

さあ行きますよ、サンクトペテルブルク観光二日目。

本日の観光スポット巡り、先鋒としてお相手を務めてくれるのは、多数の名作絵画を所蔵する国立ロシア美術館。サンクトペテルブルクの美術館と言えばエルミタージュ美術館ですが、この国立ロシア美術館も美術館としての魅力としては負けていない。

エルミタージュ美術館の新館にも絵画の名作が大量に並んでいますが、エルミタージュがゴーギャン・ピカソ・モネといった誰でも知ってる世界的な芸術家の作品を並べるの対し、この国立ロシア美術館はあくまでローカル志向。エルミタージュ美術館が国外の芸術品を集めているのに対し、国立ロシア美術館はロシア人画家による美術品に特化。ロシア人芸術家による絵画作品収蔵数では、世界でも有数のコレクション数を誇る美術館なんだそうです。これは行かないわけにはいかないでしょう。


ひだり みぎ
早速、ヴェニス波並みに運河が発達したフォトジェニックな水の都を歩いて博物館へ。

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2ドアクーペなのにくっそ車体が長いリンカーンコンチネンタルの五代目。こんな渋い車がさりげなく街並みに溶け込んでるんですからね。インスタ映えする都市ランキングでも上位に位置することでしょうw



マネキンが砂袋被せられて誘拐される人みたくなってるが、サンクトペテルブルクはファッション分野でも最先端。これはロシアの英雄・ピョートル大帝が築いた聖ペトロの町ですわ。


美しい水の都を歩いていると、運河の先にサンクトペテルブルクの象徴的存在の血の上の救世主教会が見えてきた。

だが、先ずはこちらの見学から。血の上の救世主教会から歩いて3分ほどのところにある国立博物館へ。
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1898年、皇帝ニコライ2世の勅令によってロシア美術専門の美術館として開館した国立ロシア博物館。所蔵品は約40万点にも及び、12世紀頃のイコン画からソビエト時代の絵画、20世紀のロシアアヴァンギャルド作品まで、ロシア美術が今日まで辿ってきた道のりを辿ることのできる作りとなっているらしい。


豪華なことに1825年に建てられたミハイロフ宮殿が美術館として利用されていて、建物だけでも一見の価値がある。


ミハイロフスキー宮殿(ロシア国立美術館)の運営団体は、ストロガノフ宮殿、大理石宮殿、ミハイロフスキ城といった観光スポットも別館として従えているらしく、3日間有効で4カ所全てに入れるお得なチケットも用意されていた。

3日間有効で4カ所に入れるチケット:900ルーブル
1日間有効で2か所のみに入れるチケット:650ルーブル
ロシア国立博物館のみに入れるチケット:450ルーブル

ワイは今日の夕方にはモスクワへと飛ぶ計画になっていたけれど、ロシア国立博物館以外にもストロガノフ宮殿とミハイロフスキ城には行きたかったので、900ルーブルのチケットを購入して宮殿内へと入る。

一歩中に入ると、両側に広がって二階へと続く中央階段と、二階部分の白く立派なコリント式列柱が正面に現れ、ここが帝政様式の宮殿として建てられたということが直ぐに分かる。




ひだり みぎ
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宮殿の中に並ぶ数々の名作は年代別に展示されていて、イコン画に代表される宗教画が描かれていた時代から、古典的な技法での貴族の肖像画ばかりだった時代、ロマノフ朝の民衆や歴史画が描かれるようになった時代、そして現代的なロシアンアバンギャルドの時代へと、ロシアの美術史を順に追っていけるような分かり易い構成になっている。

最も古い時代の作品は、教会や礼拝堂の為の宗教画であるイコン画。

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ロシアが誇る天才イコン画家アンドレイ・ルブリョフによる作品をはじめとした宗教画が並ぶ。

続いて、ロマン主義時代きっての肖像画家オレスト・キプレンスキーによるダヴィードフの肖像が、でーんとどでかく飾られている。
Orest Kiprensky:《Portrait of Yevgraf Davydov》(1809)

この時代の絵画といえば、貴族や司令官クラスの軍人の肖像画がメイン。芸術自体が一部の特権階級のみに広がるエクスクルーシブなものだった。

19世紀のコーナーでは、絵画の皇帝ことカール・ブルーロフのポンペイ最後の日が一番の注目を集めていた。456.5×651cmという超大作だ。
Karl Bryullov:《The Last Day of Pompeii》(1830-1833)

今から約2,000年前の西暦79年。豊かな生活を楽しんでいたポンペイ市民に、突如、最後の日が訪れた。古代ローマでヴェスヴィオ火山が大噴火を起こし、ポンペイの町が一晩で火山灰の下に埋もれ消滅したのである。
空を焦がす炎、雲を引き裂く幾筋もの稲妻、黒く淀んだ空から降りかかる火の粉、逃げ惑う人々。ここに描かれた人々は誰一人と生き残らなかったであろうことを考えると…今にも人々の断末魔が聞こえてきそうな迫力だ。

海をテーマに数千にも及ぶ名画を残したイヴァン・アイヴァゾフスキーの作品も印象的。
Ivan Aivazovsky:《Wave》(1889)
Ivan Aivazovsky:《A View of Odessa on a Moonlit Night》(1846)
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臨場感があるというか、あまりにもリアルで額縁を超えて水が溢れ出してきそう。

リアルさで言えば、18-19世紀ロシア美術の最高傑作の一つとされるアレクサンドル・アンドレイェヴィチ・イワノフの“民衆の前に現れたキリスト”も鳥肌物。
Alexander Ivanov:《The Appearance of Christ Before the People》(1857)

イワノフ先生が20年もの年月をかけ描き上げたワイフワーク的超大作。一人一人の表情から各人の人間性すら伝わってきそうなくらいにリアルで、見ていてちょっと気持ち悪くすらあるw

ここまで19世紀前半に到るまでのロシア絵画の展示が並び、いったん1階に降りてからは19世紀後半からの、所謂「移動派」と呼ばれる先生方のコレクションが続く。
wikipedia先生による説明の受け売りだけど、「移動派」とは簡単に言うと、西欧絵画の真似事ばかりで硬直しきった帝政ロシアの官立美術アカデミーに反旗を翻した若い写実主義の画家の集まり。拠点を持たずにロシア全国を巡回して展覧会を開いていたことから「移動派」と呼ばれるようになったらしい。

彼らのモットーはリアリズムと反権力的批判精神をベースにした“自由”と“ナロードニキ”。絵画のテーマや描き方まで制限をするアカデミーの指導を拒絶し、民主主義的な理想のために全国を練り歩いたそうだ。この彼らの活躍により特権階級のものだった芸術が一般民衆に解放され、以降、様々なテーマの作品が描かれるようになるきっかけとなったらしい。確かに、このあたりから美術館内の作品の多様性が出てきて、肖像画や宗教モチーフの作品よりも、農民や大衆を描いた作品や歴史画が増えてきた。

その移動派の代表的な画家の一人が、貧困や差別にあえぐ社会の最下層を題材とした作品を多く残したイリヤ・レーピン。
Ilya Repin:《Barge Haulers on the Volga》(1873)

彼の代表作が、こちらのヴォルガの船曳き。疲れ果てた労働者たちが、奴隷さながらの粗末な恰好で船を曳っ張っている。悍ましいほど凄惨な風景であり、なんだか不気味というか、恐怖すら感じる画風である。

ぱっと見、ヴォルガの大自然を背景に、非人間的で過酷にあえぐ絶望的に貧しい民衆たちのたくましい姿を描いた作品だ。澄み切った綺麗な空気とは対照的な、まるで別世界の住人かのように汚れ切った哀れな男たち。重々しいロシア民謡の調べにのった、地面の底から湧き出てくるような低い歌声で男性合唱が聞こえてくるような迫力がある。

しかし、美術館の公式ホームページから引っ張ってきた画像で一人一人の表情をみてみると、真っ黒に焦がした顔を下に向けた作業者の中に、目を見開き前を見据える肌の白い少年の姿がある。

まるで、逆境の中でも現状に甘んじることなく、高い志と希望を失わずに前を向いていこうというメッセージかのようだ。同じ境遇の仲間と慣れ合うだけじゃだめだ。サラリーマンの群れの中で、日々惰性的に、享楽的に過ごすだけで年を重ねる自分にも、ぐっと心に突き刺さるものがある。

この美術館内に於いて、レーピンと同様、いや、それ以上に扱いが大きかったのは大作の歴史物を得意としたワシリー・スリコフ。
Vasily Surikov:《Suvorov Crossing through the Alpes in 1799》(1899)

7年戦争、ポーランド侵攻、露土戦争、ブカチョフの乱、第二次露土戦争、フランス革命戦争と歴戦を重ねながら、軍事史上まれな不敗の指揮官としてその名を残すスヴォーロフ将軍。


奇行エピソードがあまりに多すぎて、漫画の世界ではもはや人間扱いすらされなくなったエキセントリックな彼w

その彼がフランス革命戦で敵軍の追撃を振り切るために大胆なアルプス越えの作戦を命ずるシーンを描いたのが、スリコフの大作“アルプスを越えるスヴォーロフ”。

この、もうやけくそ-って様で飛び降りていく家来たちがまたね…集団自決の絵かと思い間違える程、表情から絶望感が滲み出ています。背に腹は代えられないとはいえ、アルプス越えって破天荒すぎるでしょw 因みにこの時、将軍は御年68の高齢。戦にも勝ち、アルプスにも勝ちました。

歴史物が大好きなスリコフの大作をもう一発。
Vasily Surikov:《Stepan Razin》(1906)
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人類史上稀にみる大盗賊団の頭であるステンカ・ラージン(スチェパン・ラージン)がカスピ海を渡る姿を描いたこの作品。
ドン・コサックの首領だったステンカ・ラージンは農奴の開放・貴族専制性の廃止という大義名分を掲げて戦った農民反乱の指導者。重税にあえぐ民衆の支持を受けて勢力を拡大し、最後はロシアからの独立とコサック共和国の建設を目指して反乱を起こしたが、最後は仲間の裏切りにより捕らえられ、赤の広場で八つ裂きの刑に処されたそうだ。歴史的には貴族支配に立ち向かった英雄として語られていて、ステンカの反乱が後の後世の民衆に勇気を与え、プガチョフの反乱、そしてロシア革命へと繋がった重要な歴史のターニングポイントだったと評価されているらしい。

スリコフは題材のチョイスが面白いっすね。

レーピン、スリコフを中心とした「移動派」の作品群の展示が終わると、順路は再び2階へ。ここから先は20世紀の絵画作品の展示となり、またも作品の雰囲気が一変する。
ひだり みぎ
Arkady Plastov: 《Kolkhaz Holiday》(1937)
Alexander Gerasimov: 《A Hymm to October》(1942)

ひだり みぎ
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ソビエト時代の独特な作品集。

ひだり みぎ
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前衛的な作品の数々。


マッツ・ミケルセンさんですよね?

いやー、面白かった。最後は時間の関係で駆け足になってしまいましたが、結局、開館から3時間以上は費やしてしまいました。絵画に関しては全くの門外漢だったけど、全然楽しめましたよ。

所感

エルミタージュ美術館と比べて:
・人が少なく芸術鑑賞の場としては落ち着いていて良い
・ロシア人作家の作品に特化
・縦横数m級の規模が大きく迫力がある作品も多い
・知らない画家による作品も多く、先入観なく鑑賞できる

サンクトペテルブルの美術館と言えば世界三大美術館にも数えられるエルミタージュ美術館だけど、落ち着いた環境の中でロシアの歴史について学ぶなら国立ロシア美術館が断然お勧め。

【ロシア国立美術館(The State Russian Museum)】

所在地:4 Inzhenernaya Str., St. Petersburg
営業時間:10:00-18:00(木曜日のみ-21:00)
定休日:火曜日
ホームページ:http://en.rusmuseum.ru/


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