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ウイグルの偉人 ユースフ・ハーッス・ハージブの墓


カシュガルの朝は…遅い。
この日も10:00を過ぎてから漸く外が明るくなり始めたといった具合である。そりゃあそうだ。中国東端の黒竜江省からカシュガルまでアメリカの西海岸-東海岸以上の距離があるのに、全土で統一された北京時間を遠く西域の地にまで押し通そうとすること自体がナンセンス。だが、「新疆ウイグル自治区は中国の不可分の領土」という原則から「北京時間」が強いられているのである。そこで、新疆のウイグル族の人たちは自分たちで勝手に2時間遅らせた「新疆時間」を定めて生活しているらしい。同じ土地に二つの時間を使って生活する人たち…中国の少数民族統治の矛盾を象徴するような現実である。

日の出からホテルチェックアウトまでの僅かな時間で何をするか。取りあえず、今晩のクチャまでの夜行列車に空席があるか、近くの乗車券販売窓口を覗いてみることに。昨晩にオンラインで空席状況を確認したら見事に全席売切れだったけど、販売窓口に行けば売れ残り席があるかもしれないので希望を持ち続けなさいとホテルの従業員に励まされていたので。


最悪、目的地をタシュクルガンに変更する手もあるけれど、この時期のカラコルムハイウェイはできれば避けたいところ。ホテル従業員の励ましの言葉を胸に乗車券売り場に向かってみる。


マイナス10度の凍てつくカシュガルの町を歩き辿り着いた鉄道乗車券売り場。これでやっと屋内で暖が取れると気が抜けたのも束の間…。北京時間10:00営業開始との看板が掲げられていて、室内にはバッチリと明りが灯っているにもかかわらず、何故だか門戸は固く閉ざされている。ガッデム!

近くで屯していた漢族の治安維持隊に尋ねたところ、“馬上開門”(もうすぐ開きますよ)とのことだったので、開店まで近くの飯屋で腹ごしらえすることに。
ひだり みぎ
…といっても、この時間に開いているのは早起きなウイグル人御爺さんが経営する青果店くらいのもの。ナツメグやクミンといった香辛料やナッツ類と一緒に鮮やかな色をした石榴やリンゴ、スモモ、瓜等が店頭に並んでいるけれど、朝食としては役不足。これだけ寒いんだから体の芯から温まるようなホットな料理が食べたいんだ。


結局、近場で唯一開いていた飯屋・馬記牛肉面に入ることに。


店内に入ると、客も店員も性別を問わずひたすらゴツいことに気付く。ただ、決してデブという訳でなく、骨組みからして華南地区の漢族とは全く違う屈強なボディをした方々ばかりでものすごい威圧感。これぞテュルク系のコーカソイド!といった見た目なのに、これでも国籍的な括りとしては中国人。なんとも新鮮な気持ちになる。


牛肉麺、羊肉饅頭×2、ハンバーガーをたらふく食べ、〆て14元。ウルムチ空港でたった一杯の豆乳に25元を支払わされたことを「思い出し怒り」するような良心的価格である。

胃袋を満たし、乗車券売り場を再訪する。

すると、拍子抜けするくらいにあっさりと21:26カシュガル発南疆鉄道5820号の一等席を確保することができた。運賃は込々268元(≒4,300円)、古代オアシス都市国家亀茲国が栄えた古都・クチャまで8時間強で、05:39(新疆時間03:39)に到着予定となっている。

さて、この時点で11:00。チェックアウトまでの時間を埋める為、近場にあるユースフ・ハーッス・ハージブの墓なる観光地にも寄ってみることに。ユースフ・ハーッス・ハージブは11世紀のカラハン朝に生きたウイグル人思想家で、今日のキルギス共和国の紙幣にも肖像画が採用される等、なかなかの大物らしい。紙幣にも採用されてるくらいなんだから、日本でいうところの諭吉クラスの大御所なんだろうと勝手に思い込むことにする。

が…ここも営業時間中にもかかわらず門戸が閉ざされたまま。


詰所的な小屋まで押し入って休憩中の係員に入場したい旨を伝えると、嫌々ながらチケットを販売してくれた。この時期に観光客が来るのは随分と稀なことらしく、とりあえず営業時間内外にかかわらず門は閉めておくらしい。


とても偉人のお墓とは思えない荒廃感マックスな敷地内。入り口正面に申し訳程度のお城風建築物が見える。


正面の建物の奥にはどこかコミカルな地球儀のような球体があり、不謹慎だけど、どことなくテーマパーク風というかラブホテル風というか…。厳かな感じが全くもってしない。

ひだり みぎ
中央アジアのムスリムは偶像を忌避していないのだろうか、入り口正面の建物に入るとユースフ・ハーッス・ハージブ師の像がお出迎え。氏は11世紀にカラハン朝の首都であったベラサグン(現キルギスのどこか)で生まれ、同王朝の当時の副都であったカシュガルの宮廷に仕えたそうだ。


ひだり みぎ
こちらのウイグル調の建物がユースフ・ハーッス・ハージブ廟。自分の中ではシルクロードと言えば仏教とか三蔵法師のイメージなんだけど、ちょうどこのユースフ・ハーッス・ハージブが生きたカラハン朝が中央アジアの王朝として初めてイスラム化し、カラハン朝を基点として徐々に徐々にトルコ系イスラム文化が中央アジアに広がっていったらしい。なんで、ここらタリム盆地周辺のウイグルの皆さん的にはカラハン朝を自らの祖先が建てた祖国と見なしているようで、故にここら一帯ではカラハン朝時代の偉人の廟が数多く建てられているようだ。こういう地味な背景を知ってる知らないで新疆旅行の楽しみ方が違ってくる。

ひだり みぎ
凝った造りのエントランス。

原理主義者の方々的には完全にアウトなんだろうけど、偶像のみならず肖像画まで掲示されてる。
ひだり みぎ
このユースフ・ハーッス・ハージブ氏の最大の功績は、現存するトルコ・イスラム文学最古の作品「クタドグ・ビリク(幸福になる為の知恵)」という長詩を残したことらしい。現代の世に蔓延る「幸せになる為の10の法則」的な自己啓発本の走りみたいなタイトルだな。


幾つかの書籍が展示されているが、これらがクタドグ・ビリクなのだろうか。氏のバイオグラフィー的な厚めの書籍も飾られている。

ひだり みぎ
クタドグ・ビリクからの引用なのか、「340 頑固者一生難得歓愉」「821 君主対人民執法公平」といった具合にウイグル語と中国語で節番号と幸福になる為の訓示らしきものも掲示されている。「君主対人民執法公平」とか、中共への当て擦りだろ。


埋められずに普通に舞台の上に保管されているのだが、これが棺だろうか。

【ユースフ・ハーッス・ハージブの墓】



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【2017年新疆・敦煌・西安旅行記】











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