時は2世紀末~15世紀後半頃、今日のベトナム中部ではチャム族を中心とした民族の国家、チャンパ王国が一時代を築いたという事実は深緑の山々に囲まれたミーソンの圏谷に残された聖地跡に見て取れる。ただ、あれだけの大規模な遺跡の割に、ミーソン遺跡には出土品が殆ど展示されていなかったことに軽い失望を受けた。なんていうか、だだっ広い谷に廃墟に近い姿の遺構がデーンって残ってるだけというか、それはそれで感動的なんだけど、他の出土品はどこよ?みたいな。どうやら一部の一級出土品は発掘を主導したフランスの調査部隊がくすねていきましたよ、と。でも、残りのチャンパの芸術作品や石造彫刻はダナンの中心部、チャンフー通りとバクダン通りの交差点にあるチャム彫刻博物館に大量に展示されているらしい。というわけで寄ってきましたよ、チャム彫刻博物館。
ハン川に面したひと際目に付く黄色い建物。1915年にフランス人建築家によって建設された歴史ある建造物で、プルメリアなど様々な植物に囲まれた邸宅のような佇まい。中庭を囲むようにコの字型に展示館が配置されている。
獅子の像。メインとなる神像の両脇に一対で置かれていたということで、日本で言うところの狛犬だな。
受付ではチャムダンスが鑑賞できるコーナーがあり、有料のオーディオガイドが借りれたりもする。
ミーソン遺跡の俯瞰模型。実際の遺跡は深い森の中で全体像が見えないので、この立体模型は大いに役に立つ。 この博物館、どちらかといえば遺跡に行った後の復習じゃなく、行く前の予習の為に来るべき場所のようだ。
石膏で出来たA1遺跡の復元模型もあったりする。当時の高さは28mで、模型のスケールは1:40になっている。
他にもチャンパ王国跡から発掘された貴重な出土品所狭しと雑然に並べられている。おもしろい表情・形の彫刻なども多くあり、中々のもの。もうどれから見ていけばいいのやら。
7~15世紀にかけて作られた考古学的にも貴重なチャム族の遺産だが、殆どの彫像は床や台に無造作無防備に置かれている。ぬるーい管理にびっくりしてしまうのと同時に感謝する。目の前で彫刻を観察できるんですから。
ここにおられましたか、チャンパ王国の神々は。ヒンズーの神々がこれでもか、恐れ入ったかと言わんばかりにズラリと並んでいる。
ローケーシュヴァラ(左)と蛇神ナーガの頭(右)。それにしても、チャンパの神々の表情はなんて柔和で剽軽なことか。ミーソンの遺跡もあれはあれで迫力があって素晴らしい遺構だったが、やっぱり崩れた煉瓦の塊よりは出土物の方がチャム人の匂いが伝わってくる。
祭壇に刻まれた王宮内の生活の様子。インドラに仕える半神半獣の奏楽神団・ガンダルヴァかな。妖艶に舞う姿が美しい。
軟らかい砂岩石から作り出す曲線美がチャム彫刻の特徴。国宝級なんじゃないかと思えるくらい保存状態の良い傑作が並んでいて、1時間や2時間じゃ見て回れないくらい。
シバ神(左)と、鯱の起源とも考えられている海獣マカラ(右)。チャンパではヒンドゥー教が受容されていたため、ガネーシャ、シヴァ、ガルーダといったお馴染みの神々の石像も数多く展示されている。
ヴィシュヌの妻であり幸運・富・繁栄の神様ラクシュミー(左)に11-12世紀に作られたと推定されているキングギドラのようなヴィシュヌ神(右)。
シヴァ神の男性器であり、果てはシヴァ神の象徴とされているリンガ。子孫繁栄の意味も込められているので、妊娠を願う方はリンガを触って願いを込めるよう。決して卑猥な物なんかではなく、これも立派な文化財。
上に乗っている棒状の物が男性の象徴で、その下の土台のような物が女性の象徴・ヨニなんだ。 リンガとヨニの組み合わせは、ミーソン遺跡にも残されてたな。
9世紀末から10世紀頃の砂岩製門衛像。四天王像を思い起こさせるような井出達の門衛が勝ち誇ったポーズで水牛を踏みつけている。
人の身体にゾウの頭、4つの手を持つガネーシャ神。シヴァ神とパールバティー神の間に生まれた子供とされていて、最初は頭も人だったのですが、シヴァの怒りを買ってしまったことから頭を切り落とされ、代わりにゾウの頭を付けられたんだとか。
右手に少し戻るように廻ると、少し作風の違う象と龍の彫刻が現れる。かつて、チャム族はアンコール王朝と戦争や和平を繰り返していた時代があり、チャムの出土品の作りからもアンコール朝の影響が伺える。
雑貨とかは少ないけど…
チャンパ王国の遺産に関連するこんな石像たちが売られている。現代の日本で女性社員にリンガの像なんて渡した日には完全にアウトだろう。子孫繁栄の象徴なんだけど。結局、値札が無くて一々交渉しないといけないのに石像なんかの相場が分からなかったので、ここでは何も買わず、と。ミニリンガに一個VND1,000,000はネタ用土産としてはちょっと高いだろう。交渉すれば値下げはできるんだろうけど。
部分部分が欠損しちゃってる出土物も多いけど、歴史や文化好きには見どころの多い博物館かと。せっかくミーソン遺跡まで行かれるのであれば、行く前でも行った後でもチャム彫刻博物館に寄られることをお勧めします。
【チャム彫刻博物館(Bao Tang Dieu Khac Cham)】
住所:8, 2 Thang 9 St., Hai Chau Dist., Da Nang
電話:(0511) 357 2414
営業時間:7:30~10:30 / 14:00~17:00
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