ベトナムが誇る奇天烈宗教・カオダイ教

続いて我々が向かった先はベトナムの新興宗教であるカオダイ教の総本山。20世紀初頭、下級官吏だったゴーボンチウを教主として発足した宗教コミューンで、圧政に喘ぐメコンデルタの貧民層の間で燎原の火の如く急速に広がり、一部は武装して「カオダイ軍団」なるものまで築きあげられた。1950年代半ばには勢いと妖しさを合わせ持った有力カルトとして台頭を現し、信徒数は100万以上、最大で25,000人を擁する私設軍隊まで有した一大勢力となったそうだ。宗教団体の武装隊が万単位の規模というのは尋常ではない。カオダイ教が政権奪取し、独特の宗教国家を樹立する可能性すらあったと言えるだろうし、今でも総本山が位置するタイニン省は人口の7割がカオダイ教徒とも言われており、タイニン省は半ばカオダイの独立国家のような位置づけなのではないだろうか。何が人々をそんなにも惹きつけたのか?カオダイ教を簡単に言うと、『なんでもあり』『ごちゃまぜ』の宗教であり、仏教、道教、儒教、イスラム教、キリスト教などの教えが全て教義の要素を包摂するというはちゃめちゃ摩訶不思議な宗教なのである。なので、釈迦やキリスト、ムハンマドといった定番どころから、ソクラテス、老子、孔子、李白(詩人)、ビクトル・ユーゴー(小説家)、トルストイ(小説家)、グエン・ビン・キエム(教育家)、孫文、モーゼ、チャーチル、シェークスピア、ナポレオン、デカルト、トマス・ジェファソンなど、何となく偉人ぽそうな人物はとりあえず聖人と呼び使徒と仰ぐといった次第で、総勢70名をも越える聖人・聖霊がいるようだ。百歩譲ってソクラテスまではなんとなく分からぬでもないが、一介の小説家が選ばれるとか、選定基準はどうなっているのか。何とも壮大で謎な宗教・思想のコラボレーションである。

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水牛の背にまたがる農夫が耕す田園やアブラヤシの木林の間を走ること30~40分くらいだろうか、小さな街に出た。そして、街道を進むとやがて閑静な街並みの一角に建つ奇妙な大門が姿を現した。これこそがカオダイ教の総本山への入り口だ。

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赤と青と黄色の三原色を使ったカラフルで存在感のある怪しげな門構えからはどことなく道教寺院ぽい匂いがするが、どこかテーマパークのアトラクションのエントランスなのではないかと間違ってしまいそうな代物だ。いきなり想像以上の派手さと馬鹿馬鹿しさに圧倒される。

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門の後ろ側に建っていた小屋ではおじいちゃんおばあちゃんの信者が休んでいて、勧誘活動なのかこちらを眺めてくしゃくしゃの笑顔で手を振っている。とりあえずこちらも手を振りかえしておくが、今回はツアーで来ているので小屋には入らずガイドさんについて境内中央へと向かう。

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建物の中央上部に掲げられている時計はよく見るとまさかの手書き。何とばかばかしい。今でも300万人もいるとされる信徒はこの偽時計を見て何とも思わぬのだろうか。それとも時計の示す水曜日の12時25分55秒という時刻自体に何らかの秘められたメッセージがあるのだろうか。

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中央礼拝堂。どことなくロシアあたりに建ってそうなキリスト教聖堂っぽくもあるが、円形ドームがイスラムっぽさも演出しているし、一番奥の塔にはいかにもヒンドゥーな神様の像が据え付けられている。見る角度によって見えるものが違うトリック・アートのように、聖堂っぽくもヒンドゥー寺院っぽくも見えてくるから不思議、流石は宗教のスペシャルミックスだ。男は右から、女は左から入ると言う謎の規則に従い、ツアー客一同で恐る恐る謎の新興宗教の総本山の内部へと進む。

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内部は天井に澄んだ青空が広がり、柱には躍動する昇り竜が巻き付き、側面には充血した眼玉が内部を見つめている…建物内部は奇抜な装飾、独特なフローリングが異様な巨大な空間になっていて、赤、青、黄、白のアオザイを着た信者や僧たちがフロアを行ったり来たりしていた。何となくではあるが、マザー2というゲームに出てきそうな世界である。

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朝の6時、昼12時、夕方6時と深夜12時の4回の礼拝が義務付けられているらしいのだが、既に午後1時半を回っているにもかかわらず、海外から駆け付けた我々観光客の為になのか、ゾロゾロと白いアオザイを身に纏った信者たちが集結、最後に信号機トリオの様に赤・青・黄色のカラーアオザイを着た僧たちが祭壇に近い位置に座り、お祈りがスタート。中国の古楽器・二胡をはじめとする楽器により奏でられた音楽に乗せてお経が響き、鐘が鳴るタイミングで信者が一斉に頭を深く下げる。頭を上げたり下げたりイスラム教の礼拝のようであるが、これをひたすらこれを約1時間半繰り返すそうだから苦行である。ツアー参加者一同は漫画のようにぽか~んと口を開け、その派手な演出と一心不乱に祈り倒す信者たちの姿に圧倒されていたようだった。


お祈りが終わると寺院の中を一通り観察することができる。写真撮影も問題なく、逆に、どうぞ見てくださいという感じさえした。

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こちらは左から孫文、ヴィクトル・ユーゴー、グェン・ビン・キエム。数多いる聖人の中から選りすぐられた3名の聖人が神と人類の契りに関する文面に書面しています。ユーゴ―はカオダイ教の海外宣教チーフだったそうだwww思わぬ人物が神として崇め奉られているところにカオダイ教のエンターテイメント性が垣間見える。ここはぜひ我々のイチロー鈴木を推薦してきたかったのだが、どうやら他薦は受け付けないようだ。無念。

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礼拝後も礼拝に来る信者が後を絶ちません。

信者の祈りに邪魔にならぬよう寺院内部の観察を続けることに。
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派手な装飾と色彩が視覚を刺激する。他の世界的大宗教にあるような威厳などは微塵も感じられないし、こんな気違いじみた環境でお祈りなんかしていると頭がおかしくなりそうだ。

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中央に掲げられたこの目玉こそがご本尊である『天眼』で、『宇宙の原理』『宇宙の至上神』を象徴している。礼拝では皆さんこの目ん玉に向かって祈りを捧げていたのである。どことなく20世紀少年の『ともだち』のマークやフリーメイソンのシンボルマークを髣髴をさせ気味が悪い。

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カオダイ教のシンボルだけあって境内の至る所でこの目を見ることができる。リアルな目の充血ぶりが不気味。

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礼拝所の脇に屯をしていた信者たち。大多数がおじさんおばさんの高齢者のようである。宗教が成せる技だろうか、皆さん慈愛のに溢れた神々しい表情をしている。彼ら白いアオザイを見に纏った一般信者の上には多数の助祭、その上に3000名の祭司、その上に72名の司教、その上に36名の大司教、その上に三人の枢機卿、更に上に儒教・仏教・道教を担当する三人の立法枢機卿、そして頂点に教皇というキリスト教のような階級制組織システムになっているようだ。

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昼飯は寺院の前のレストランで。豚肉のスープ麺VND 60,000。この時点で既に午後3時。ホーチミンに戻る頃には6時過ぎだ。ベトコン最後の軍事拠点・クチトンネルに奇天烈宗教カオダイ教の総本山というユニークなツアーだったが、十分に楽しむことができた。ツアー代金もUS$9ぽっきりだし、ホーチミンに来られる旅人にはおすすめのツアーである。


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