ホアロー収容所でヘビーな気分になった後、タクシーで女性博物館へと向かう。女性博物館はベトナム語でBao Tang Phu Nuと言う。Bao Tangは博物館という意味なので、Phu Nuが女性を意味する言葉なのだろう。北京語で婦女という漢字は“フーニュー”と読むので、恐らくだがベトナム語のPhu Nuは婦女という漢字に由来するのではないだろうか。ベトナム語には中国からの借用語が多い。ありがとうを意味するベトナム語はCam Onというが、これは中国語の感恩(ガン・オンと発音)から来ていると思うし、さようならを意味するベトナム語であるTam Bietは暫別(ザン・ビエと発音)という中国語の発音に近い。他にも中国語でゴン・アンと発音する公安がベトナム語ではCong Anと呼ばれたり、ジャオ・トンと読む交通はGiao Thongだったりと、発音が中国語に酷似していて、街歩きをしていて驚かされることが多々ある。
さて、ホアロー収容所からはタクシーで5分もかからなかった。料金もワンメーターで40円程だ。
博物館の建物は意外にモダンで明るい造りとなっている。1995年、ベトナム婦人会連合なる団体の働きかけによりオープンしたこの博物館では、過去の歴史と現在のベトナム社会におけるベトナム女性の社会への貢献っぷりや彼女らの暮らしぶりに関する資料や品々2万5千点が展示されている(とガイドブックに書いている)。
因みにベトナム婦人会連合とはベトナム共産党の主導団体である祖国戦線というおどろおどろしい集団に属しているそうで、全階層の女性を網羅し1500万人もの会員数を誇る女性の社会的地位向上を目指した巨大な政治団体だそうだ。
中に入ると肩に子を担ぐ逞しい女性の巨大オブジェが登場。何だか怖い。男尊女卑と言われる日本社会から来た男なのだが、日本人男であるという理由で無差別に男女差別者のレッテルを貼られて博物館長に捕えられたりはしないだろうか。
ベトナム人女性は結婚して子供を育てて尚働くのが当たり前!パネル写真で紹介されているような行商オバチャンズは家族を支える為に日々路上に出て長時間に渡り物売り業務をこなしています。ある者は天秤棒を肩に担いでフルーツを売り、ある者は物資を満載した自転車を漕ぎ、ある者は移動式屋台を切り盛りして…過酷な労働条件ですが家族の為に苦労を厭いません。いや、苦労を厭わないというよりは、それぞれ何かしらの理由でそうせざるを得ないというのが本当のところのようです。フロアに流れるドキュメンタリー動画を見てみると、女性行商人が何やら涙ながらにインタビューに答えている。彼女らはほぼ例外無く皆が貧村からの出稼ぎ労働者。自身の家族全員の生活を支えるために家族を残して単身ハノイに出稼ぎにきて、似た境遇の女性同士で豚小屋のような場所で共同生活を営むという。彼女らは陽も出る前から市場で商品を仕入れ、それらが売り切れるまで行商をするという暮らしを送っているのだという。食べていく為、生きていく為、彼女たちは担いでいる重い天秤よりも遥かに重い運命を背負って必死に生きているのだ。
ベトナム戦争時は銃後でも負傷兵の世話や革命家たちの保護などに貢献しただけでなく、従軍する女性も多かったそうで、最大で2000万ものベトナム人女性が軍事的・政治的戦いに身を投じていたそうです。ベトナム戦争以外でも、フランスによる支配、中国の侵略など、破壊と混乱にまみれた時代を送ってきたベトナムでは戦争が起こるたびに男は戦地へと駆り出され、妻は子供、家族を一身に守り続けてきた。
こういった歴史的背景があるからだろう、現在でも妻は炊事に家事、洗濯、育児、家計、そして労働などの責務を負い、家族を命がけで守っている。だからだろう、ベトナム国内では女性の地位がとても高い。男の日はないのに女の日は年に2回もあったりす(その内の一回は国際女性デー)。
因みに予断ではあるが、社会的地位が高い分プライドも高く、また家族を想う気持ちが強い分、夫に裏切られた時には鬼と化し、夫に対し容赦なく残酷な制裁を加えてしまう。『浮気相手への報復か?夫の就寝中に男性器を切断!』的なニュースがよく紙面を賑わせたりする。男性器は切り落とされても、すぐに病院に持って行けばくっつけることができる為、念には念を入れて切断後に煮てしまうという用心深い女性もいるそうな…
続いて目を引いたのが聖母道の祭壇とシャーマンの展示物。聖母と言ってもキリスト教のことではなく、聖母道とは土着信仰だったアニミズムと中国から伝わった道教が融合して発展したベトナム独自の宗教らしい。
聖母道の神々は府という世界に住む。府には、天・地・水の三府と山岳・高原・森林を象徴する岳府を加えた四府として信仰されていて、天を司る柳杏聖母、地を司る地仙聖母、水を司る水宮聖母、山岳を司る上岸聖母という女神がそれぞれ存在するようだ。
『英雄』と称されるオバチャンズメンバーの顔写真
逞しすぎるベトナム人女性。ベトナムにおける女性の社会的地位が比較的高いのが何故だか少しだけ分かった気がする。
女性博物館 | |
住所: | 36 Ly Thuong Kiet , Ha Noi |
電話: | (+84-4) 38259936 |
時間: | 08:30-16:30 |
定休日: | 月、テト休み |
料金: | VND 30,000 |
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