国立モスクとマレーシア・イスラム美術館

多民族・多宗教のマレーシアでは、街の至る所に人々の“祈り”の場所を見ることができる。今回もモスク、ヒンドゥー寺院、道教寺院…今回の旅行でもスリマハマリアマン寺院やマスジット・ジャメ、バトゥ洞窟、関帝廟などを見て回ったが、殆どの宗教施設が異教徒の観光客に対してもオープンなのがマレーシアの魅力の一つ。まぁ多宗教と言っても、国教はイスラム教になっていて、人口の6割もがイスラム教を信仰している為、やはり一番多いのはモスク。お祈りの時間になるとコーランやアザーン(礼拝時間の告知音)がどこかしこから流れてきます。また、道行く女性は結構な割合で頭からスカーフを被っていて、外を歩いているとイスラム国家の雰囲気を感じ取ることができます。日本人にとってはあまり馴染みの深くないイスラム世界、クアラルンプール観光の締めにマレーシアのイスラム文化の中心となっている国立モスクとイスラム美術館を見て回ります。

先ずはマレーシア・イスラム美術館。1999年にオープンした、マレーシア初のイスラム文化をテーマとした美術館です。
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国立モスクから街路樹に囲まれた坂道を上ること約5分。白を基調とした建物にブルータイルがいかにもイスラムチックなイスラム美術館に到着。
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ほわーー。外観も美しい建物ですが、館内も真っ白で幻想的で神聖な空気が流れ、奇妙な静けさも相まって、まるで異世界に迷い込んだような錯覚にとらわれる。チケットはRM12(≒400円弱)だが、前に並んでいたどうみても30代後半~40代のオッサンがタイか何かで作ったのであろうペラッペラな学生証を見せながら『I’m a student』とか言って半額にしてもらっていた。こんなオッサンが学生であるはずがないだろう!こんな神聖な場所でようやるもんだ!!

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美しいドーム形状の屋根。この美術館は4階建てで、吹き抜けの天井や、空間を広く使った展示スペース、白を基調とした高級感溢れる造りがハイソな雰囲気を醸し出しています。

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おお!これぞイスラム美の真髄!!各階ごとに屋根の色彩や模様が異なっている。この天井はずっと見ていると時が経つのを忘れてしまうほどに美しい。いきなりイスラム美術の緻密さ、繊細さ、優美さにいきなり圧倒されます。

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装飾品もTheイスラム的。床や窓ガラス、エレベータの扉などの細部にもイスラムの意匠が施されていて、見ていて飽きない。

さて、イスラム教を国教とするマレーシアですが、その始まりは15世紀のマラッカ王国にあるとされています。当時のマラッカ海峡での交易活動はイスラム勢力の港湾都市を行き来するイスラム商人が中心となったこともあり、マラッカへのイスラム商船の来航を促すため、時の国王がイスラムに改宗したのです。

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マラッカと紅海に面するサウジアラビア西部の港湾都市・ジェッダを結ぶ汽船。マレー系イスラム教徒たちから成るエジプト巡礼団満載です。イスラム教徒は一生のうち一度はメッカを巡礼することを義務付けられており、熱心なマレー系ムスリムもハリ・ラヤ・ハジ(犠牲祭)に合わせて聖地メッカを目指したそうです。マラッカからジェッダまでは旅客船で12日程度、貨物船では少なくとも20日かかったそう。

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犠牲祭には毎年200万人ものイスラム教徒がイスラム教の二大聖地・メッカ(預言者ムハンマドがアラーの啓示を受けた場所)とメディナ(ムハンマドが埋葬された場所)を訪れると言われています。世界13億人の信者が巡礼を熱望していて、近年、空の便が発達したことと各国の新興国各国が経済的に発展してきていることから巡礼希望者の数は年々増えつづけている。しかし、聖地の収容能力は限られているため、
サウジアラビア政府は二種類の人数制限策を取っている。その一つは外国からの巡礼者数を、各国人口の百万人当たり千人に抑えること。全世界の信者数は約13億人と言われているので、単純計算すると合計百三十万人。これに国内各地からの巡礼者を含めると約200万人になる。外国からの巡礼者に少しでも多く機会を与える為、国内のイスラム教徒に対しはハジ巡礼を五年に一度に制限している。改めてスケールの大きな宗教だと気付かされます。上の写真はメッカ近くのミナ渓谷。ミナには預言者アブラハムと息子イスマイル、妻ハガールを叛かせようとしたサタンを象徴する石柱があり、その柱に向かって小石を投げつける投石の儀式が行われます。白いテントと人で埋め尽くされている様子はただただ圧巻である。

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こちらはイフラームと呼ばれるイスラム教徒がメッカへの巡礼中に着用する衣類。男性用は、IzarとRidaと呼ばれる2枚の白い縁なし木綿生地で、1枚を肩にかけ、もう1枚を腰に巻いてひもで結ぶ。男性用が全く同一なのに対して、女性用は特に決められた統一的スタイルは無く、地域や宗派などによって様々変種があるそうだ。イフラームは、アッラーへの全面的な帰依を意味するものであり、 イヒラムを着用した巡礼者は、巡礼の行事を終えて平服に着替えるまでは、現世での物質的な野心や虚飾、人間の欲望や快楽追求の心を慎まねばならない。具体的には散髪、爪切り、髭(体毛)剃り、平服・手袋・靴・貴金属・装飾類の着用、香水の使用、他人との口論、粗野な振る舞い、殺生および狩猟、異性との性的関係はおろか異性の話をすることまでもが禁じられています。

1階の犠牲祭特別展示室(2013年8月20日~11月20日まで)でイスラム教の基礎知識を学んだ後は、展示室へGo。途中にはオシャレなギフトショップもある。
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イスラム美術の書籍や写真集からイスラムアートの柄や画像を配したノートやポストカード、Tシャツ、アラベスク模様の入ったマグカップにキーホルダー、美しいモザイク模様の文具や食器などが売られている。意外に癖の無いデザインで、ポップな印象すら受ける可愛らしい商品が並んでいて驚いた。日本人には少し遠く感じられるイスラム教だが、これならあまり馴染みのないアラビア語や幾何学模型が配された実用品や小物などでも土産物として喜ばれること請け合い。この日は何も買わなかったのだが、他じゃ手に入らないハイクラスなレアアイテムばかりなのでノートでも買ってくりゃよかったと後になって激しく後悔。

◎商品価格抜粋
セラミックマグ:RM9.90~
お皿:RM120~
ノート:RM9.00~
T-シャツ:RM26.90~。

3階4階は展示室になっていている。世界各地のモスクのミニチュア模型、アラビア文字の書道掛け軸、古代のコーラン、ペルシャ絨毯、民族衣装、イスラム陶器や木彫り細工、装飾品など、約6000点の展示品からイスラム美術のありとあらゆるものを見ることができます。
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美しい装丁や挿絵、優美なアラビア文字が目を引く各国のコーラン集。イスラム教は偶像崇拝を禁止しているのでアラー神やモハメッドなどの銅像や絵画はありませんし、基本的には美術品に生き物をあしらえてはいけないということで、アラビア文字を使ったアートや無機質な幾何学模様を用いた美術文化が発展していきました。

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アラベスク模様やのコーランの一節を配した壁掛けにドリアンのような木彫りの器。こうやって見てみると、アラビア文字というよりも一種のアートのスタイルのように感じ取れてしまうので不思議だ。

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19世紀の豪華な櫛(左上)に鏡(右上)。緻密で細かくい造りはまさに芸術。下は兜と見せかけて、女性用の頭飾り。シルエット・色使い・装飾…洗練されたイスラム美術の美しさに目を奪われてしまう。

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ドーム屋根にも緻密に計算されつくした幾何学模様の姿を見ることができる。

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イスラム美術館3階から見る国立モスク。よく目にする玉ねぎ型やドーム型と違って斬新な18角の青色星形ドームと73mにもなるミナレットが特徴。

イスラム美術館の貴重な展示内容を満喫してどっぷりとイスラムの世界に浸った後、マスジッド・ヌガラ(国立モスク)まで引き返す。

国の威信をかけ約5万2000平方mの土地に総工費1千万ドルをかけて建てられた。1965年に完成した割には非常にモダンな造りのモスクである。
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モスク前の銀行は勿論イスラム金融。97年のアジア金融危機後、経済発展の為の国家戦略として政府がイスラム金融の成長を促進してきたそうで、今やマレーシアはイスラム金融の世界の中心地とまでなっている。

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国立のモスク…マレーシアは他人種・他宗教国家であるが、言わずもがなマレーシアの国教はイスラム教である。何となくイスラム教というと「過激派」「原理主義」「テロリスト」「ジハード」等の危なっかしい単語を連想しがちであるが、これらのイメージが当てはまるのは極々一部の方々だけ。中国で人気のイスラムラーメンのチェーン店である蘭州ラーメンの店主たちも気さくな良いやつばっかりだし。

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さて、こちらのモスク、マスジット・ジャメ同様に、礼拝の時間以外はイスラム教徒以外にもモスクを一般開放しています。内部見学をするにはドレスコードで服装が定められているので、女性は入り口で無料で貸しだされている紫色の袈裟で肌を隠し、スカーフで頭髪を覆うことになる。モスク内部はファンはあるが勿論クーラーは聞いていないので蒸せるんだろうな~とは思うが、観光客はローブをまとってのプチムスリム体験を楽しんでいるようだった。因みに男でもショートパンツや袖無しシャツの場合はこれらを着用することになります。

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中に入ると、白い大理石を敷き詰めたピカピカな床が広がっている。美しい。

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建物壁のデザインや隙間壁の格子のデザインの洗練された美しさにも思わず見とれてしまう。緻密に考え抜かれているのだろう。規則正しく決まったデザインを広範囲に広げていくことで、元の基本デザインからは考えられないような印象を演出する技法は見事の一言。イスラム教の“無限のあり方”が見事に表現されていて、眺めていると感動すら覚えるが、これが眼からの刺激によるトランス状態というものなのだろうか。危ないな。

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この時計もまたユニーク。いちおう12時間制であることは変わらないようだが、文字盤の数字がちょっと変。数字自体にもアラビア文字があるんですね。モスク内は基本的にアラビア文字が原則となっているが、まさか時計の数字までアラビア文字だとは…

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広くて壮厳な雰囲気の礼拝堂。幾何学模様のステンドグラスを通して入りこんだ光に包まれる穏やかで神秘的な空間だが、これより先はイスラム教徒以外は入ることができない。金ぴかド派手なタイやカンボジアの寺院であったり真っ赤な中国道教寺院も良いが、どこか無機質なイスラム礼拝堂の静けさや厳かさも非常に神秘的で身が引き締まる思いになる。

イスラム教に関しては基礎知識が無かった分、すごく新鮮で好奇心がそそられたし、今日一日でイスラム教を身近に感じることができた。 異文化に触れることは多宗教国家マレーシア観光の醍醐味の一つかと思うので、クアラルンプールまで来られる際はマレーシア美術館と国立モスクまで足を運んでみては如何でしょう。


マレーシア・イスラム博物館
住所: Jalan Lembah Perdana 50480 KL
電話: 603-2274-2020
時間: 10:00-18:00
定休日:
料金: RM12、学生及び18歳~6歳は半額、6歳以下は無料。
特別展示が無い場合の一般料金はRM10

 

マレーシア国立モスク
住所: JABATAN KEMAJUAN ISLAM MALAYSIA 50480 JLN PERDANA
電話: (03)26937905 
時間: 09:00-12:00・15:00-16:00・17:30-18:30金曜のみ:15:00-16:00・17:30-18:30
定休日: 金曜日は半休、また、お祈りの時間には入場不可
料金: 無料
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コメント

  1. punpunpun

    嬉しいお返事をどうもありがとうございます。
    ちなみに私も、高い!と思って買わなかったのですが、
    マグカップでも買ってくればよかったな~と後悔しているところでした(^^;
    東南アジアにたくさん行っていらっしゃるのですね。
    また行く時は参考にさせていただきます。
    ありがとうございました。

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