イスラムとキリストの奇跡の調和 パレルモ大聖堂(カテドラル)

文明の十字路に位置し、古来より様々な文化が溶け合い混ざり合ってきたシチリア島。
ゴッドファーザーのイメージが強すぎるためか、何かとマフィアや政治腐敗といったダークサイドな部分ばかりに目が向けられがち。でも実際は複雑な歴史の中で独自のエキゾチックな文化が育まれてきた魅力溢れる島なんです。

その複雑な歴史故にシチリア島では様々な文明要素が入り混じったユニークな建造物を多くみかけるのですが、その中でも特別に興味深いのがパレルモ大聖堂。

元々、パレルモ大聖堂の原型は教会。これが9世紀にシチリア島を攻め落としたアラブ人がモスクに改造し、そうかと思ったら今度は11世紀に再びキリスト教勢力のノルマン人がシチリア島を奪回して教会としてリニューアルオープン。13世紀以降もフランスやスペインなどシチリア島の支配者がコロコロと変わり続ける中で、フランス風のゴシック様式やスペイン風のバロック様式などがパッチワークのように付け加えられていきました。

壮大な地中海の歴史の荒波に揉まれ幾度となく姿かたちを変えながらも聖地として繁栄してきた、まさに生ける歴史絵巻のような建造物。それがパレルモ大聖堂なんです。

どこまでも高く青い空に強い日差し、茂るヤシの木、乾いた空気、ごつごつした岩のような建築素材…
イスラム文化の影響を色濃く受けたアラブ宮殿かのようなこちらの建物が、まさかの大聖堂なんです。

こうして見ると確かに様々な様式が入り混ざってゴチャゴチャしている感じも否めませんが、それでもなんとなく全体として調和が保たれている感じがしないわけでもありません。面白いですよね。
今ある建物の大部分はノルマン王国時代にアラブ風味を活かして建てられたことから、アラブ・ノルマン様式という建築スタイルになるんだそうです。

柱には細かな細工やアラビア文字が刻まれていたりとアラブ風味が強く、とても大聖堂の門構えとは思えない造りです。GeoGuessrでここが出てきたら迷わずイエメンあたりをクリックしちゃうでしょうね。

内部の設計も時代と共に変わり続け、最近では1781年-1801年にかけ新古典様式に改装されました。創建当時の面影は全く残っておらず味気無さは否めませんが、外観と違ってパッチワーク感は無く、全体として統一性のある厳かな空間になっています。

祭壇前の床には季節を表す日時計があります。床に12星座が描かれていて、天井の中から差し込む光が季節を教えてくれるという原始的な仕組みなんですが、星座の絵がシュールで威厳たっぷりの教会内の雰囲気とのギャップに萌えました。

パレルモの司祭で、反マフィア活動に尽力したジョゼッペ・プリージ(Giuseppe Puglisi)も祀られています。彼はパレルモで最も貧しいとされる地区を担当し、若者をマフィアの影響や貧困から救おうと奔走。マフィアとの繋がりのあった建築業者との契約も切るなど反マフィア路線をひた走り、最後はマフィアの襲撃により殉教したとされています。

マフィアからの数々の脅しにも「暴力的な人々の言葉は怖くない。怖いのは正直な人たちの沈黙だ。」と決して屈せず、信じる道を貫いた司祭。彼の祭壇の前には今でも参拝客が絶えないそうです。合掌。

また、司祭だけでなく教会の地下にはノルマン王家の霊廟も残されていて、同じく地下にある宝物庫や屋上テラスと合わせてチケットを買えば見学できる仕組みになっています。

料金は大聖堂の公式ホームページをご確認ください。霊廟、宝物庫、テラスそれぞれ単体のチケットもあれば、お得なコンボチケットなんかもあったりします。
Biglietteria – Area Monumentale – Cattedrale di Palermo (ticket-shop-cattedraledipalermo.it)

宝物庫

ここまで来てケチる訳にはいかないので、全部乗せのフルコンボチケットを購入して宝物庫へ。大聖堂の前身だったモスクの名残と思われるアラビアンな装飾まで見ることができるので、これはテンションが上がります。

宝物庫にはノルマン時代の芸術作品やお宝が数多く展示されていますが、最も存在感があるのは宝石がちりばめられたこちらの王冠。15世紀にフェデリコ2世の妻の石棺の中で発見されました。

螺鈿細工や象嵌細工から銀細工に刺繍など、ディティールへのこだわりがとてつもない超大作の数々。近くで見たら意味わからないレベルで非常に非常に細かな匠の技がびっしりと詰め込まれた芸術品は、本当に息をのむほどの美しさです。幾何学的な模様感や色遣いにイスラムの風味が感じられるのも、ノルマン時代の芸術品ならではでしょう。

ぱっと流し見したら10分もあれば見終えるくらいの規模感ですが、細部まで吟味してたらいくらでも眺めてられるような、そんな宝物庫でした。

王家の霊廟

石棺の一つ一つに施された彫刻やモザイク画などを見ていると、もう墓というよりも美術品の類です。

地下聖堂は改装時にも手が加えられておらず、ノルマン時代の雰囲気がそのまま残されているそう。火葬ではないので御遺体がそのまま収められているのかな。そう考えたら、身震いもするわ鳥肌は立つわの神聖なる空間です。

屋上テラス

地下の見所を終え、最後に螺旋階段を登って屋上のテラスを見てきます。

閉塞的な地下のスペースから一転、天空に昇天したかのような抜群の開放感が味わえます。

このゴシック調の鐘楼だけは明らかに付け足した感が隠しきれていませんが、これは14世紀のフランスのアンジュー王朝支配時代に造られたそう。地上とは違った角度から眺めると、見え方が全然違ってまた面白いものです。

パレルモの長い歴史を見守ってきた大聖堂のテラスからは、今も人々が生き生きと暮らすパレルモ市街地のパノラマ風景が楽しめます。

遥か紀元前から地中海の歴史の荒波に揉まれながらも地中海随一の豊かさを謳歌し続けてきたシチリア島。その悠久の歴史に想いを馳せるのに最も相応しい場所は、このパレルモ大聖堂以外にないでしょう。

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