古代の漆喰芸術が残るワット・ナーン・パヤー

シーサッチャナーライ遺跡公園での〆は城壁内の南端にあるワット・ナーン・パヤー。ガイドブックには「全体に傷みが激しく、ラテライトのブロックを積み重ねた7つあったといわれる礼拝堂も今は1つしか残っていない。」と説明されている。


腰~胸の高さほどの城壁に囲われた敷地の中に仏塔やらなんやらが見える。ガイドブックの説明に反して遺跡の状態は良さげだし、緑が共存した遺跡の景観と落ち着いた佇まいが何だか癒し効果を持っているかのような心和む遺跡である。


復元図を見ると造りは至ってシンプル。メインの仏塔前に本堂があり、少し離れた場所に仏塔に囲まれた御堂があったようだ。仏塔だらけの他の遺跡と比べるとチョイ寂しい内容だな。


メインの仏塔は15~16世紀に建てられたスリランカ様式のもので、見事な釣鐘型。先端のトンガリコーンもきちんと天を突き刺すように残されていて(修復されていて?)、保存状態は非常に良い。


礼拝堂の柱しか残されていない他の遺跡と異なり、ここでは壁の一部も辛うじて残されている。


礼拝堂の西側の壁の格子窓の枠部分には初期アユタヤ様式と言われる繊細な浮き彫りが残っていて、風化対策として屋根で保護されている。レンガを積みあげ復元しただけの他の遺跡とは違い当時の美しい装飾を見ることができる貴重な遺構である。


初期アユタヤ朝時代に施されたという漆喰による浮き彫りの唐草模様がはっきりと確認できる。かなり複雑で細かい模様がパターン化されているようなので、掘ったりして作ったのではなく今日で言うところの左官的な職人が型に石膏を流し込んで模様付けしたのだろうか。工法に関してまで説明されていなかったが、屋根が取り付けられるまで野晒しで放置されて来たのに何百年後にも原型を留めてるって凄いことだ。

結局、シーサッチャナーライの旧市街には6時間くらいほど滞在した。規模はスコータイ遺跡と比べれば遥かに小さいけど、観光客が少なくゆっくりじっくり見て回れるので、個人的には非常に楽しめた。

帰りはバイクでスコータイに向けて南下。


バスで移動する場合はスコータイへ戻るバスは最終便が午後16:00らしいので注意が必要だろう。交通の便は良くないが、スコータイまで来られた際にはシーサッチャナーライも見ておいて損は無いかと思う。腐っても世界遺産ですしね。

【2016年スコータイ・ピサヌローク旅行記】







丘の上のワット・カオ・パノム・プレーン

続いてワット・チャーン・ロームの背後にある小高い丘の上に建つワット・カオ・パノム・プレーンを目指す。


ラテライトを積み上げて造られた心臓破りの階段が丘の頂上へと続く。結構な高さなので、頂きからはシーサッチャナーライの絶景が楽しめるに違いない。


遺跡公園を一望できるかと思ったが、残念ながら丘の上まで生い茂った木々が障壁となって見晴らしは悪し。


見晴らしに少々失望しながらも汗をかいて長い石段を登り切ると、礼拝堂跡の向こうで黄色い袈裟を纏った細長い顔が特徴の釈迦牟尼像が迎えてくれた。しかし、小さな丘には寺院の建物を彷彿とさせるものは殆ど無く、礼拝堂の祠堂に安置されていたと思われるこの仏像と、礼拝堂の屋根と壁を支えていたと思われる列柱の基石が僅かに残る程度である。


仏像の裏側にはひっそりと小さな祠がある。こちらは修復箇所が多く、遺跡というよりは比較的新しく造られたような雰囲気だ。


祠の中は気味が悪い。中央に浅い窪みがあり、真っ赤なドレスが壁際に飾られている。どうやら現役の祈り場として機能しているようだが、肝心の祈りの対象が無いんだよな。穴の奥にあるフィギュア人形にお祈りしてる訳でもないだろうし。

ひだり みぎ
祠側から見たスリランカ様式の仏塔は苔むした感じが時代を感じさせる。これで見晴らしが良ければ最高なんだろうけどな。見所らしい見所も無い上に大量の虫がブンブンと跳び回っていたので、休む暇も無く直ぐに丘を後にした。この内容ならわざわざ無理して丘を登る必要もなかったな。

【2016年スコータイ・ピサヌローク旅行記】







象に護られたワット・チャーン・ローム

続いてワット・チェディ・チェット・テーオの正面にあるワット・チャーン・ロームへ。こちらはラームカムヘン大王の命令で13世紀に作られた寺院の遺跡で、寺院名はタイ語で「象に囲まれた寺」くらいの意味らしい。「チャーン」というのは象のロゴでお馴染みチャーンビールの「チャーン」かな。


柱だけが無残に残る礼拝堂の奥に釣鐘の形をしたスリランカ様式の仏塔が見える。漆喰も残りマズマズの保存状態のようだ。


方形の基壇は3段構成。2段目には寺院名にもある象の彫刻がぐるりと基壇を取り囲み、3段目の周壁には仏像を安置した龕が設けられている。


寺院跡なんだけど、なんかドラクエに出てきそうな神殿みたいだな。夜に来たらドラキーが沢山飛んでて、仏塔の中のステージに闇の力を司る中ボスくらいがいそう。


仏塔を取り巻くこの寺院のウリでありご自慢の象の像。近くで見たら意外とデカく、足を揃えていてお行儀良さそう。

ひだり みぎ
鼻とか全部取れちゃってて、牛だか犬みたいな獣にしか見えないんだけど、これらの象39頭が24時間265日体制で仏塔を厳重に警備してる。うん、象が基壇を支えてるとガイドブックに書いてあるが、どちらかと言えば仏塔を護っている構図のように見受けられる。

ひだり みぎ
基壇の3段目の龕に鎮座する仏像は象より更に悲惨な状況にあり、見ていて痛ましく思えてくるほどだ。

ひだり みぎ
鼻が捥げるとかの次元じゃなく、顔面全体が失われてたり膝から上が根こそぎ無かったり…。

ひだり みぎ
足の皮膚(漆喰)が剥がれて中の砂岩が剥き出しになっていたり、臓器が持ってかれてたりと致命傷をお負いになった仏像ばかりで、完全体の五体満足像は極々一部のみ。


基壇の上から境内を除くと、より一層ドラクエのダンジョンの様に見えてくる。規模・保存状態共にシーサッチャナーライ遺跡公園では一番かな。

【2016年スコータイ・ピサヌローク旅行記】







ワット・チェディ・チェットテーオ

シー・サッチャナーライの遺跡は城壁内外の広範囲に点在しているので全ての遺跡を見て回るにはトゥクトゥクやバイクが必要となってくるが、城壁内は遺跡が集中してるのでギリギリ歩いても周れそうな規模感である。


一応20バーツで園内バスに乗って楽することもできるけど、遺跡内の雰囲気を楽しむ為に自分の足で歩いて見て回ることに。


幹が太く背の高い大木が遺跡感を醸し出す。

ひだり みぎ
枯葉で覆われた鬱蒼とした林の中に古代の井戸やら建物の跡が残っているが、いずれも名前すらないマイナー寺院のようである。タイの遺跡は圧倒的にレンガ造りが多いので崩壊が激しいが、石造りのアンコール遺跡と比べてそのぶん廃墟感が増す。

鬱蒼と生い茂る森の中に細々とした名も無き遺跡が続く中、漸く本格的な遺跡が顔を出す。シー・サッチャナーライの中心的寺院であるワット・チェディ・チェットテーオである。

南東の正門から中央のチェディへ向かう参道の両側に塔やら柱やらが立ち並んでいて壮観だ。


スコータイ独特の蓮の蕾を模した仏塔を中心に、ヒンドゥー教や各仏教など、この地を支配した各王朝の遍歴を示すように様々な様式を取り入れた大小33基の仏塔が残っている。


復元図。中央の塔の前にあった礼拝堂は木造だったのか殆ど全て朽ち果ててしまっていて、境内には多数の仏塔が残されるのみとなっている。これらの仏塔の大半は14世紀、ラームカムヘーン大王の孫でありスコータイ王朝6代目リタイ王の統治下で建造されたらしい。リタイ王は自らも出家経験があり、セイロン島から高僧を招聘するなど深く仏教に帰依した人物だ。


西側正面から見ると、やはり中央に立つスコータイ様式の仏塔とその前に立つ南部タイ様式の仏塔が特に目につく。


中央の塔。

ひだり みぎ
各仏塔の壁龕には仏像が納められている。


その中でも特徴的なのが、手前の仏塔に安置されたインド神話の蛇神・ナーガの上で瞑想する仏像。背光の代わりにナーガを置いた仏像は東南アジアでも見かけるが、仏が座る台座までがとぐろを巻いたナーガというのは非常に珍しい。


まだまだ修復待ちの瓦礫の山があったりと、何ともワイルドな遺跡である。

【2016年スコータイ・ピサヌローク旅行記】







シー・サッチャナーライを流れるヨム川の畔

ワット・プラシー・ラタナーマハタート遺跡を見終えた後は、ヨム川に沿ってシーサッチャナーライ遺跡公園の方向へと進む。ここから遺跡公園までは2キロ超あるので、バスで来られた方はバスの停留所脇にあるレンタルバイク屋でチャリを借りておくことをお勧めする。歩けない距離じゃないけれど、暑さが徐々にボディーブローのように効いてきて苦戦すること間違いなしなんで、チャリのレンタル料金40バーツで楽が出来るのなら安いものだと。


私はバイクで来てたのでゆっくりとバイクを西に向かって走らせる。道中にもポツリポツリと遺跡があって楽しめそうだ。


こちらはワット・チョムチェンというアユタヤ時代に修復されたと見られる仏塔と寺院跡。どうやらここら一帯にはスコータイ王朝により町が築かれる前から村々が存在したようで、いわゆる元町的なところなんだとか。町の集会所的な役割の寺院だったのかな、凄くこじんまりとしたたたずまいの寺院跡である。

ひだり みぎ
形の良い三角屋根をした仏殿の中の坐像は漆喰が剥がれ落ちてしまっていて、軽く触っただけで崩壊しそうな雰囲気だ。顔がのっぺらぼうで不気味すぎるので触るのも憚られるけど。


裏手の仏塔も基盤はしっかりとしているが、先端部分が捥げ落ちてしまっている。完璧な姿じゃないぶん、むしろ遺跡っぽくて良いじゃないですか。

ひだり みぎ
そんな遺跡の脇に場違いな建物を発見。どうやら小さな博物館のようで、往時の寺院再現図やら地面を掘り返した発掘現場にどなたかの人骨やら陶器やらなんかが展示されていたが、急に係員が来て100バーツの拝観料を求められた為、見学を打ち切って敗走。100バーツもの価値など到底無い代物だ。

*後に知ることになったが、シーサッチャナーライ遺跡・チョムチューン考古学的発掘場・サンカローク窯跡はいずれも入場料が100バーツで、3か所通し券が220バーツでも買い求められるとのこと。

ひだり みぎ
クネクネと激しく蛇行するヨム川。水アリ山アリで風水的に運気の良さそうな場所だったので、暫し畔に座って休憩する。暑いんですよね、スコータイ。ワット・プラシー・ラタナーマハタートの売店で水を買っておいて正解だった。今日だけで既に2リットルくらい水を飲んでいる。


休憩後、バイクにまたがり木々に覆われた田舎道を西へと進む。


今度はワットチャオチャンというクメール式の寺院跡を発見。12世紀後半から13世紀前半にかけて統治したクメール王ジャヤーヴァルマン7世時代の寺院という。ジャヤーヴァルマン7世は首都のアンコールトムから王国各地の宗教施設に至る“王道”を築いた伝説的な王で、ここは彼が遺した王道の最も北にある療養所とされているそうだ。王道とか、本当にロマンある。アンドレ・マルローの王道という本は難解乍らも東南アジアへの興味を駆り立ててくれる傑作なので、東南アジアの遺跡とかに興味のある方にお勧めしたい。


直ぐ近くにも別の寺院があったが、もうワットを見過ぎてお腹一杯でバイクを降りる気にもならなかったので、バイクに跨ったまま写真だけ撮ってスルー。


細々とした遺跡が並ぶエリアを抜け、更に西へ進むと…


到着!入場料は100バーツ。チャリは良いがバイクでの入場は認められないとのことなので、インフォ前の駐車場に駐輪。


チケット売り場から城壁まで更に1キロ弱。汗水たらして歩いた末、干上がった水濠と、その先に城壁が見えてきた。

ひだり みぎ
シー・サッチャナーライ遺跡公園は王都スコータイより一回りほど小さい城壁と堀に囲まれていて、この城壁内外に歴代王達が数多くの寺院を建設した。歴代の王が王に就任する前に副王として統治したのが、このシー・サッチャナーライだったそうだ。王になる為の登竜門なんだから、そりゃあスコータイ王朝にとっての重要拠点である。


デカい!スコータイ遺跡公園に比べればまだ小さいが、それでも総面積は45平方キロメートルと充分に広大な城壁内にかつて栄えた都市の名残が広がっていて、中には有料(20バーツ)トラムなんかも走っているくらいだ。

【シーサッチャナーライ遺跡公園】

営業時間:08:30~17:00
住所:Muangkao, Si Satchanalai, Sukhothai 64130

【2016年スコータイ・ピサヌローク旅行記】