書門院と西安碑林博物館

次なる訪問場所は城壁南面の文昌門近くにある碑林博物館。碑林というのは聞き慣れない単語だが、文字や図像を刻んだいわゆる石碑の集合体のことらしい。字面からも想像できる通り、石碑・墓誌銘などの石像彫刻が林の如く大量に林立しているとのことで、碑林ということなのだろう。確かに宋代から収集してきたとされる碑林博物館の石碑コレクションは膨大で、書道や絵画・文化・歴史好きには一日あっても見足りないくらいの貴重なお宝が満載と専らの評判だ。

場所は唐の時代で言えば官衙が棟を連ねた皇城の南辺、町の雑踏からは一歩外れた静かな佇まいの中にある。
ひだり みぎ
永寧門から城内に入ると、右手に筆・硯・墨・紙の文房四宝や書画骨董の専門店が立ち並ぶ書院門が見えてくる。地図を見ると、碑林博物館はこの古風な通りの突当りに建つようだ。


永寧門から城壁に沿って東に向かうと、文昌門の横っちょに朱に塗られた門扉を配したいかめしい石造の門が見えてきた。額には碑林博物館とある。

もともとは宋の時代に孔子廟だった場所が利用されているで、所々に廟の名残が見て取れるし、どことなく神聖な感じ。
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朱の門を入った先で入場券を購入し、第二の門である木造の牌坊をくぐるとその先はもう碑の林の中。入り口の左右に著名な大夏時代の石馬といった国宝級の石像や石碑が並ぶ長い舗道を歩いていくと、次第に気分が高まってくる。

入り口からまっすぐ奥に向かって進むと、突当りに瓦屋根の美しい東屋風の碑亭が現われる。額に「碑林」と書かれ、その中央に一際大きな四角柱形をした碑が配置れている。こいつがお宝揃いの碑林博物館でもアイコン的存在となっている石台孝経である。
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石台孝経は親孝行を説く孔子の教えが刻まれた石碑で、なんと唐の玄宗皇帝の直筆というね。隷書で書かれた文字は力強くかつ流麗で、流石は王者の筆使いといったところ。後世書道の手本になったというのも頷ける逸品である。

この碑亭の奥は西安碑林コーナーの室内展示となっていて、古代思想がたっぷりと詰められた大量の碑林がこれでもかと並ぶ。唐時代から1,000年以上も前の書家の字体を見ることが出来るのは、石が持つ耐久性のお蔭であろう。時間を超えて現代にも伝わる石の文字、凄いロマンである。

先ずは7ある展示室の中の第一室。ここには唐の開成2年(837年)に完成された十二部の儒家経典・開成石経が陳列されている。当時の文士の教科書とされる開成石経の主な内容は古代中国の政治経済・文化・軍事・周辺諸国との交流史などなど多岐に渡り、その数は合計114石・228面・65万252万字に上る。

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印刷技術が未発達な唐代に於いて石経は大量印刷のツールであった。石碑から拓本をとり、それを教科書として科挙に挑む生徒たちが勉学に励んでいたのである。


さらに建物は奥へと続いていき、第二室には顔真卿の多宝塔碑・欧陽詢の皇甫誕碑・欧陽通の道因法師碑など、中国の歴史マニアにとって垂涎の的たる唐代の名書家の筆跡が千余年の時を超えて残されている。自分は残念ながら博物館訪問後に知ることとなったのだが、唐への景教(ネストリウス派キリスト教)伝来を記した「大秦景教 流行中国碑」(唐・781年)もこちらの展示室に置かれてるそうだ。

1,100年余の歴史を持つ石刻の前に立つと、職人たちが手際よく「たんぽ」を叩き拓本を取る様子が目に浮かんでくるようだ。漢字なんでなんとなく意味も読み取れますしね。

こちらはかの有名な林則徐が残した遊華山詩。澳門と広東省東莞の虎門で彼にまつわる博物館を訪問していた小生としてはなんとか解読したかったのだが、達筆過ぎて読み取れず…。

石造りの名著がこれでもかと並び中国史ロマンが堪能できる碑林コーナーを抜けると、その先には歴史陳列博物館が待っている。
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博物館前に林立するのは明清時代の馬繋ぎ。柱の上部に様々な格好をした何とも奇天烈な奇獣が彫刻されているのが興味深い。

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朱雀・龍・ユニコーン等が確認できる。


だ、駝鳥だろうか…。歴史陳列博物館にはなんともユニークな石像が並ぶ。

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最大の目玉は太宗遺愛の名馬の像を板石に刻ませたという昭陵六駿になるだろう。太宗が隋末の今夏藍から唐朝を創建する戦いの最中に乗馬していた馬を石に浮彫したもので、白蹄烏・特勒驃・颯露紫・青騅・什伐赤・拳毛カの6駿の内、アメリカのフィラデルフィアに渡った颯露紫と拳毛カの2駿以外が碑林博物館に保管されている。

いやー、それにしても凄い。丸一日いても飽きないくらいのコレクションはただただ圧巻の一言で、中国史に興味のある方にはマストシー。
逆に、中国の文化や歴史に興味の無い方はスルーすべし。碑林は図書館と同じでただ見学して楽しめるという訳ではなく意味の判らない人にはただの石の集まりにしか見えないので、訪問前に唐代の石経について簡単にプレビューしておくことをお勧めする。

碑林博物館

所在地 : 西安市三学街15号
開館時間 :夏期 8:00~17:30 ・冬期9:00~17:00
入館料:淡季(12月1日~2月末)50元・旺季(3月1日——11月末)75元
電話:029-721-0764
交通:バス213・402路「文芸路」、14・239路「省博物館」


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