ダナル・ハディ・バティック博物館

芸術の都ソロはジャワの4大バティック産地の一つで、町中至る所でバティック工房を目にすることができる。バティックとはインドネシアの伝統的な染色工芸で、ロウで生地を防染して染色するろうけつ染めの布地のこと。ジャワ島が最大の産地なので、日本ではジャワ更紗としても知られている。

ソロにはバティック協同組合的な組織もあるのだろうか、家庭内手工業的な小規模工房バティック専門店集積地に固まって商売をしているようだ。
ひだり みぎ
王宮北広場の西に広がるカウマン地区。王宮御用達のバティック職人が集まり、王族をはじめ侍従達の日常生活に欠かせないバティックの生産拠点として発展してきたエリアで、路地裏の狭い通りにバティック職人の居宅や工房、専門店がひしめき合っている。工房兼住居で今も職人家族が中で生活しているのであろう、独特の下町風情に満ちたエリアである。


バティック関連の店が集積していて、探索を楽しみながら各店舗でゆっくりとバティックを吟味することができる。これらのバティックはもともと王族が着る衣装として王宮の女官たちが手作業で仕立ててきた特別なものだったが、ロウを使用せず更紗柄を染料で直接布に染める安価プリント品が出回るようになったことで、ソロの工房の多くは価格競争に負けて廃業に追い込まれ、伝統的な図柄を描ける職人も減少してきているそうだ。

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通りでは暗くなるまで子どもたちが遊んいてワイワイと歓声が絶えることがないし、通りに設置された長椅子では主婦たちが夕涼みに座っておしゃべりに花を咲かせている。幅3mほどの狭い路地であるが、どこか一昔前の日本の下町の路地に似た空気を感じられ、歩いていると人々の生活に触れることができる。

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そんな下町の横丁に乱立する個人経営的なバティック店は、それぞれ店内奥に工房を構えていて家内制手工業的にバティック作りに励んでる。各工房ごとにデザインやテイストが違うので、バティック好きには堪らない夢の世界だろう。

また、今回の旅行で初めて知ったのだが、個人店舗だけでなく幾つかの全国ブランドのバティックメーカーの本拠地もソロに置かれているようだ。

比較的安価な品揃えを武器にインドネシア全土に店舗展開するバティッククリス(Batik Keris)も中華資本だけど本店はソロ。

高品質・高級路線の老舗バティックメーカー・ダナルハディも本店がソロにあり、旗艦店内では私設博物館も営んでいる。 ダナル・ハディ家が所有する19世紀半ばから現代までの1万枚という膨大なバティックコレクションの一部や豪華な調度品が展示されている他、バティック工房の見学もさせてくれる博物館で、観光客に人気のようだ。
旗艦店はオランダ統治時代の雰囲気の残るヨーロッパの邸宅風の建物。最終日のフライトまで時間があったので、空港に移動する前に立ち寄ってみた。

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商品のプレゼンテーションのされ方や豪華な内装がもう高級店そのもので、プリントバティックの山積みセールをしてるスーパーなんかとは違う本物の香りがする。


別館にある博物館ツアーへの参加をお願いすると、ガイドが準備できるまで5分程待ってくれ、と。一組につき一人のガイドがついてくれるそうだ。
因みに入館料は35,000ルピアで、学生証があれば15,000ルピアに割引される。

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やっぱりプリント物のバティックもどきとは違う。本物は素人目で見ても直ぐに感じ取れるくらいに気品に溢れてるし、質感・肌触りも全然違う。


値段も本物で、2,675,000ルピア(≒25,000円)と来たもんだ。確か今年のジャカルタの最低賃金が2,700,000ルピアだったよなぁ。土産物にはちと高いし、現地の人にとったら一生ものの一張羅ってところか。

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土産はセールで一着500,000ルピアちょいとなっていたコチラの柄を一着づつ。少々お高いけど、緻密に描かれた地紋に重厚な色使いに一目惚れ。インドネシア以外には着用のチャンスが無さそうだけど、飾ってるだけでもうっとりするような美しさである。

そんなこんなで買い物を楽しんでいるとガイドの準備が出来たとのことで、あらためて別館へと通される。

別館のコレクションルームには貴重なアンティークバティックなどがズラリと並び、時代毎・地域毎に分けられたコレクションを通じてダナルハディの歴史やインドネシア各地のバティックの発展史をクロニクル的に学ぶことができる。王宮伝統の渋い茶色にジャワ島北部の海岸地域に伝わる明るい色づかい…一見全て同じように見える美しいバティックも、時代や産地の違いにより作風が大きく異なり、一つひとつの何気ない柄や色にも深い意味が込められたメッセージ性のある芸術作品なのであり、それはまるで多様性の中の統一というインドネシアの理念をアート作品で具現化しているよう。流石はインドネシアが誇る世界無形文化財である。

因みに、中部ジャワの伝統紋様は落ち着いた淡い茶色をベースに、神話や伝説に着想を得た柄や、ジャワ王家に由来する幾何学模様、ジャワの精神世界観を表現した植物の芽や霊山、炎、玉座、船のモチーフが多いのが特徴となっている。その中でもソロのバティックは黄色がかった茶色に仕上げられているのが特徴で、派手さはないが上品なたたずまいでバティックファンの間で根強い人気を誇っているという。


因みにインドネシアのジョコ大統領はソロの出身。彼が外遊先でもバティックを着用しているように、インドネシアでは長袖のバティック・シャツは正装で、今日でもネクタイ着用などと同等に扱われているのだ。

コレクションルームの見学後は、バティックの製作現場にてバティックの工程に関する説明を受ける。ここでは写真撮影も許可されている。

絵付け職人の作業書は凄い生活感があり、彼女らのプライベートルームに押しかけてしまっているように感じてしまう。以前は店舗脇に大規模な主力工場を構えていたそうなのだが、古都ソロの景観法的な法律により郊外への移管を余儀なくされたそうだ。


七種類の天然の蝋を熱する為、建物の中は熱気が渦巻いている。


細かい銅の口金が付いた道具を使って作業中。器用な手先で溶かした蝋を下書きされた図案に書きこんでいく。


こちらは連続して同じ柄を染めるのに用いるチャップと呼ばれるスタンプ用の型。この型で繋ぎ目を目立たせずに模様を繋げていく。型は結構な重量があるので、これは男仕事として分担されているそうだ。

100幅×250cmの布に蝋で模様を描くには一枚数カ月の時間がかかるが、このスタンプ技法では一日約10枚以上の布にロウを置くことができるので、型の発達が安価なバティックの大量生産が可能にし、王宮関係者や富裕層のステータスシンボルであったバティックを民衆層への普及を促進したそうだ。


本物には生地の表裏がなく両面が全く同じになるそうなので、生地の裏表を確認すればプリント品の手作業品を見分けることができる。

ツアーの時間は約1時間だけど、昼のフライトを控える私のような訪問客には要点を絞った短めのツアー等も組んでくれたりと、何かと融通が利く。駆け足でのツアーになってしまったけど、美しいバティックコレクションをもっと眺めていたかった。ツアーは英語かインドネシア語のみだけど、言語的にキツイという方でもコレクションは一見の価値があるものだと思います。

【ダナル・ハディ・バティック博物館】

入館料:35,000ルピア
住所:Jl. Dr. Rajiman, Serengan, Kota Surakarta, Jawa Tengah



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【2015年ジョグジャカルタ・ソロ旅行記】












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