上海出張での打合せを終えた後はフェアモントピースホテル(旧和平飯店)へと移動する。以前に上海の駐在員にピースホテル1階にあるジャズバーに案内され、今でもあの煌びやかで華やかな社交場としてのジャズバーの世界が記憶に残っている。あの華やかな世界の舞台に泊まってみたいと兼ね兼ね思っており、ようやく今回の上海出張時に何年か越しの望みを叶えることができた。
前回は社用車で颯爽と乗り付けたピースホテル、今回はMTRの最寄り駅・南京東路から駅周辺の歴史的建造物を吟味しながら歩いて移動する。広東省はもうジメジメモードだというのに3月下旬の上海の朝晩はまだまだ結構肌寒い。
壮大なネオクラシック調とフランス様式の石造りの建築物が川沿いに立ち並ぶ河岸地区・外灘。その中心に建ち、観光巡回バスのコース内にあることから観光拠点とするには至極便利な立地にある。往時は我が本社こそ河岸沿いでもっとも立派な建物なりと覇を競って立派な建物が次々に建てられていて、これらの建物は租界上海時代の国際的な銀行や貿易会社の名残になる。2010年に万国博覧会を機に大規模改修が行われ、上海に象徴するシンボルとして甦った。
最寄り駅からは真っ直ぐ歩いて徒歩5分程。オールド上海の街並みを眺めながら歩いていると、南京東路と中山路の角に威風堂々として建つ重厚なフェアモントピースホテルが見えてきた。1956年開業の名門・和平飯店の流れを汲み、2010年にフェアモントピースホテルとしてリニューアルオープンした由緒正しきホテルである。
エントランスからして重厚で歴史建築の重みを感じさせる。このホテルの歴史の始まりは和平ホテル創業よりも前、魔都・上海租界の全盛期1929年に建造されたサッスーンハウス迄遡る。当時の上海経済の重鎮サッスーン家により建てられたサッスーンハウス内にキャセイホテル、レストラン、ビリヤードルーム、ナイトクラブなどの娯楽施設が入居し、極東でも屈指の豪華なホテルとして上海の上流階級や世界各国の著名人が夜な夜な集う華やかな伝説的社交場として名を馳せてきたそうだ。まさに上海租界の生き証人。歴史的建造物のホテルに泊まるというのはそれだけで心がわくわくする。
観光客溢れる大通りに面していて外は賑やかだが、ホテル内は静かに落ち着いた雰囲気で全くの別世界。足を踏み入れた瞬間から古風で洗練されたアールデコ調の内装にため息が漏れる。ずっしりと重厚な外観に対して柔らかく優雅なホテル内。なんというか、クラシックホテルにありがちな埃臭い油臭いイメージは無い。歴史的建造物で高級感を演出するのはフェアモントが得意とするところなのだろう。
ステンドガラスがはまった八角形の大広間。天井から美しく降り注ぐ光りの下に生けられた大きな生け花が優雅でラグジュアリーな雰囲気を醸し出している。きっと上海租界時代も同じ優雅さで当時の上流階級層を魅了したのだろう。
さて、本日は勢い余って朝9時に到着してしまったが、ありがたいことに1時間足らずで部屋を準備してくれるそうなので、それまでホテル内を見て回ることに。従業員は皆、紳士淑女ばかり。
八角形の吹き抜け部分にはオールド上オールド上海の歴史を刻んだレリーフがはめ込まれている。もうなんだかホテルそのものが博物館のよう。
ホテル内を徘徊していると館内の奥から何やらジャズの演奏が聞こえてくる。音のする方へ向いて歩いて行くと、なんとまあホールでジャズバンドの生演奏に合わせて舞踏会が開かれているじゃあないですか。現代に甦るオールド上海の伝説的社交会。どんだけ優雅で華やかなんですか。
[youtube]http://youtu.be/ZQhPeiwIlnU[/youtube]
こちらはホテル内にあるピースホテル博物館。他に見物客がいないので暇を持て余していたらしく、学芸員のオッチャンに熱烈な歓迎を受ける。日本人も来たことあるんだぞ!DAIMATSU!DAIMATSU!ダイマツと言われてもピンと来なかったが、どうやら東洋の魔女を率いた鬼監督・大松博文氏が周恩来に招かれて上海に来た際に和平飯店に宿泊したそうだ。他にもジョージ・マーシャルや魯迅、チャップリン、ノエル・カワード、ジョージ・バーナード・ショ、周恩来、エドガール・フォール、最近ではクリントン元大統領などの名だたる著名人の名前が残されていた。
こちらは1930年代の外灘を写した貴重な写真。右が黄浦江で左が外灘。黄浦江には船が横付けされて荷役作業が活発に行われていることが分かる。
ホテル館内をぶらついて1時間が経過。指定された時間にレセプションに戻ると、部屋の準備ができたとのこと。ここでスイートやクラブフロアなら部屋までスタッフによるエスコートがあるんだろうが、最安値予約の貧民にはそのような丁重な対応は無し。「6階ですから。」という部屋番号みりゃ簡単に分かってしまうことだけ説明を受け、後は自力で部屋まで向かってくれと。これが意外とフロア面積がある上にどこも同じような造りの廊下なもんで結構迷ってしまい、10分くらいかけてようやく部屋に到着した。このホテル、外から見るよりずっとでかい!
部屋はスタンダートなフェアモントルームのキングベッド。49㎡あるはずだが、間取りのせいか寝室は実際は少し狭く感じる。ベッドは400スレッドカウントのリネンと高級羽毛布団でフカフカ、そして異常に高くてよじ登る感じ。ウェスティンのヘブンリーベッドとタメを張る程の寝心地だった。疲れてたしホテル内のジャズバーで酒を仰いだからってのもあるんだろうけど。
歴史的ホテルとはいえリニューアルされたばかりなので、内装はいかにもフェアモントといった落ち着きのあるシックな装いで、近代的ホテルと比しても全くもって見劣りしないというか、近代的ホテルそのもの。DVDプレーヤー、BOSEのオーディオ、プラズマテレビ、iPodドック、イリーのエスプレッソマシン、専用バスルーム(高級バスアメニティ、バスタブ付)などの今の時代に便利な設備が備わっている。
水回り。床面積の割に寝室が狭く感じるのは水回りが広々とし過ぎてるからか。
シャワーは水圧は良いが水はけが悪いので洪水を起こさぬよう要注意。
唯一残念だったのは窓からの展望。建物の形がアルファベットのAのようになっており、内側の部屋は窓があっても見える景色は反対側の建物の壁だけという。フェアモントはマルコダイヤでBest Aveilable Roomにアップグレードされるんだけど、今回は何故か直サイトより大幅に安かったAgodaを通して予約した為、マルコパワーの恩恵に預かれず…
そして日が暮れた頃にお目当てのジャズバーへと向かう。
ここではオールド上海の雰囲気が楽しめるのだが、演奏者もオールドと来たもんだ。初期メンバーの一人、御年94歳の周さんが復活してきたとのこと。
テーブルチャージとしてRMB200(≒4,000円)。200元以内で飲み食いしたらテーブルチャージだけのお支払で済むというので、ミニマムチャージみたいなもんだろう。バーに入り、カウンター中央のスツールに通され一先ずカクテルを頼んでみる。
カクテルはRMB98×15%~。つまみがついてくるのだが、ワサビが効きすぎてて涙が出る。
マオタイベースのPanda Cocktail、ジンベースのShanghai Cocktail、スコッチウィスキーベースのPeace Cocktail、カナディアン・ウイスキーベースのGreat Canadian Cocktail、ウォッカベースのBeluga Martiniなど、独自のジャズバースペシャルカクテルも5種類あって、こちらはRMB158~。
適当にバーテンダーと話をしていると、あっという間にジャズショーの開演時間である19:00になった。開演5分程前に白いワイシャツに蝶ネクタイ、ブラックのスーツを身にまとったオールドタイマーなジャズメンたちが重い体を引きずってステージイン。平均年齢80歳というオールドジャズメンたちが奏でるジャズライブが始まった。
[youtube]http://youtu.be/hVptqm2B7es[/youtube]
静かに且つゆっくりと淡々と楽器を奏でて雰囲気を盛りたてる。
[youtube]http://youtu.be/7Nsbaps-GKs[/youtube]
音楽はあれだけど、やっぱりカクテルを傾けながらオールド上海の雰囲気に浸るのは悪くない。
仕事を終えた白人ビジネスマン、今宵の逢瀬を楽しむ若いカップル、上海のセレブな駐在妻など、開演から30分もすると20もあるテーブルがいっぱいになり、皆、静かにジャズバーの雰囲気に酔いしれる。
道路を一本隔てた先にある外灘の遊歩道からは上海タワーがある浦東側をパノラマで見ることができる。
立地的には言うことないし、雰囲気や設備なども含めて申し分ないホテルだった。
【フェアモントピースホテル(旧和平飯店)】
Booking.com
住所:上海市南京東路20号
電話:021-6321-6888
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