魅惑のミャンマー タチレイ(タチレク)後編


トゥクトゥクでのタチレイ観光を一通り終えた後は国境付近のローターリーで降ろしてもらい、イミグレ脇の猥雑な偽物市場に向かうことに。

先ずは手始めにマーケットの様子を階段の上から遠望。どんなもんかと遠目から探りを入れることに。
ひだり みぎ
通路に広げられたパラソルの下は露店になっていて、雑多な商品が狭い通りに無秩序に並んでいる状態。その中を大勢の人たちやバイクが行き交い、もうなにがなんだかワケがわからない。いきなりここに飛び込めと言われると少し躊躇する感じの混沌としたマーケットだ。
すると、アリジゴクにはまり込んだアリのように、タチレクの市場に入り込んだが為に客引きやタバコ売りに雁字搦めにされてしまう観光客の姿を発見!売り子の巣に入り込む観光客に対し、「ウハっ、獲物がやってきた」とばかりに目をギラギラに輝かせたタバコ売りの少年たちが群り、次第に売り子の数を増やして観光客の行く手を阻み、渋々タバコを買わせている。中には肩を平気で掴んだりする強引な輩も。他の商店の物売りは控えめで大人しそうなのに、そんなに煙草が儲かるのか、タバコ売りだけは鬼気せまる迫力で押し寄せている。注意すべきはタバコ売りだ。

ひだり みぎ
意を決してマーケットに突入すると、各商店では雲南省経由の密輸品と思われる中国製の偽ブランドの鞄にポロシャツ、香水、腕時計、海賊版DVDなど、中国・ミャンマーの法の目をかい潜って辿り着いた様々な違法物で溢れている。見るたびに「ダメだこりゃ」と脱力してしまうウルトラD級の偽ブランドショップの数々。中国製らしいが、見てるこっちが「あちゃぁ」と投げやりな気分になるほどの残念な独創的アレンジが施されている。みたことのないデザインのモンブランのビジネスバッグとかあるんだから、ここまでくると偽ブランドの領域を超えオリジナルと言っても良いと思う。メーサイ側にはこれほどの海賊版・コピー商品の品揃えはないので、これらを目当てにタイ人観光客がタチレイへ越境するのだろう。参考までに、ヴィトンのバッグが500バーツ、ディオールの香水100mlが100バーツで売られていた。売られている商品は、酒もタバコもバッグも服も全てがバッタもんで、しかもウルトラD級揃いという絶望的な状態。これがタチレイのバッタモンマーケットだ。

ひだり みぎ
マーケットを歩いいると私の元にもやってきましたタバコの売り子集団が!こんなカゴを肩から下げた売り子が5m間隔でゾーンプレス体制で営業にあたっているので、マーケットの中に入ろうとすれば、どうしても彼らの営業ゾーンに入らざるを得ないつくりになっている。迂闊だったのは、籠の中に何が入ってるのか覗いたところ、興味があると勘違いされて執拗に迫られてしまったことか。要らない要らないと頑なに売り子を遠ざけようとするもすっぽんマークを振り切れない。値段を下げれば売れると思われたのか、中国産のマルボロ1カートンの値段が言い値の300バーツから最後は100バーツ(≒300円)にまで下がっていた。交渉もしてないのに…どんな経路を辿ってここタチレイに辿り着いたのかは分からないが、この値段は100%マルボロではないと確信できる。この欲求むき出しのロクデモナイ亜細亜の雰囲気も嫌いではないのだが、ここの売り子はちょっと強引過ぎて流石に怖い。


で、仕入れ価格限界まで値下げしてもタバコが売れない時に繰り出される最終奥義がこれ。「バイアグラモアル、ヤスイヨ」「オンナヨウモ アル」。なんか色々な媚薬の数々が売り子のポケットから繰り出されてくる。これ買うのは相当に勇気のある方か、ネタに飢えてる方か、本気で切羽詰まってる方くらいだろうが、命懸けで使う覚悟がないと手を出さない方が宜しいかと。密告制度により得られる報酬金狙いでヤバいもの掴まされて密告されるなんてケースもあるみたいなんで…

ひだり みぎ
売り子が余りにしつこいので偽DVD屋や化粧品屋に退避。流石に店舗の中までは追ってこないようで、店の中で数分やりすごすと諦めてどこかに立ち去ってくれる。
さて、偽物屋が氾濫しているタチレイのマーケットだが、偽物屋の次に多く見かけるのはタナカ屋さんか。屋号ではなくタナカとは樹木の名前で、タナカを摩り下ろした粉末が日焼け止めやニキビ予防の化粧品として汎用されている。そんなにいいモノなのか、売り子も通りすがる女性も皆しっかりタナカを愛用していらっしゃる。顔全体にまんべんなく塗るのではなく、ほっぺと鼻にラフな感じで塗っている女性が多いようなんだが、ムラになって日焼けしないのか疑問である。ミャンマーならではで面白いけど、こんなの土産にされても困るだろうしなぁ…。

マーケット内の人口密度の高さと売り子のしつこさが大変で、最後は買い物を楽しむのではなくひたすら前進することが目的になっていた。
ひだり みぎ
ヒーヒー言いながらマーケットの小道を進んでいくと、タチレイ市街を東西に走るメインストリートに突き当たった。像はビルマ建国の父ことアウンサン将軍であろう。学生時代からビルマ独立の為に反英闘争に参画した憂国の士で、非暴力民主化運動の指導者として知られるアウンサンスーチー女史の父としても知られるミャンマーきっての人気者だ。ビルマ独立義勇軍の軍事教練を行った鈴木将校の戦犯訴追に激しく抵抗して救済するなど義理堅い面はあるのだろうが、日本人的にはやはり目的達成の為には手段を択ばない裏切り者というイメージがどうしても先行してしまうが、ミャンマーからしたらお国のため、祖国の民族自立の為に身命を賭して戦い、若くして非業の死を遂げた悲劇の英雄である。

GeneralAungSan
アウンサン将軍。 将軍と言われているのでもうすこし年配かと思いきや、彼が凶弾に倒れたのは1947年7月19日、彼が僅か32歳の時だったそう。


アウンサン将軍像の向かい側には独立記念塔と思しきモニュメントも建っている。アウンサン将軍が暗殺された翌年1948年に完全独立を果たしたミャンマー、1962年にはビルマ三十人志士の一人としてビルマ独立闘争で活躍したネウィンが軍事クーデターを起こし、軍事独裁政権が敷かれることになる。「ビルマ式社会主義」の名のもとに憲法は停止され、政党は禁止、国会は解散させられた。鎖国に近い外交政策と極端な統制経済、民主化運動に対する徹底的弾圧は経済を疲弊させていき、87年には国連から最貧国の認定を受けるほどまで国力が衰退していった。アウンサン将軍は独立前に命を落として英雄として崇められることになったが、もし彼が存命であれば、果たしてミャンマーはどんな国になっていたのだろうか。娘のアウンサンスーチーはイギリス人と結婚して民主化指導者になっていただろうか。


こちらはビルマ文字で書かれた看板。国境の町だけあってビルマ文字以外にも中国語やタイ語の標記も見られるが、やっぱり圧倒的存在感を醸し出すのはビルマ文字。視力検査表に見られるアルファベットのCのような記号というか、子供がコンパスで悪戯書きしたようなユニークな字面が何ともまぁ可愛らしい。

signs
これがビルマ語のアルファベットにあたる文字らしい。なんかのび太がメガネ外した時の目みたいなのもあるし。


続いて、腹ごしらえの為にメインストリートにある地元民で賑わうオープンエアーのレストランに入ってみることに。


店内はミャンマー民謡がガンガンにかかっている。


パパイヤシントーとミャンマーの定番家庭料理と勧められた三角形の揚げ春巻きで、サモサと言うらしい。玉ねぎとすり潰したポテトを包んだ春巻きをピリ辛ココナッツソースにつけて食べるのだが、これが美味しいんだが摩った唐辛子が大量に投入されていて辛いのなんのって。でもソース無しでは殆ど味無いし…


メインはポークハンバーグと野菜炒めのぶっかけ飯。これにミャンマービール1瓶を合わせて160B。素晴らしい風景が楽しめるというわけではないが、18世紀の時代にでもタイムスリップしたような情緒を味あわせてくれる。悪くない。


暫くすると、腹が膨れたからか、ビールを飲んだせいか、長旅の疲れからか、強烈な睡魔に襲われたので、ささやかなミャンマーツアーを終えてタイへと戻ることにした。小さな国境の街のたった数時間の観光がこんなに面白かったのを意外に思いながら。はっきり言って国境付近しか訪れることができないこの類の入国には全く持って期待していなかった。国境はお互いの国々の人々の行き来が盛んで「その国」らしさは薄れてしまっているはずで、面白いはずがない。ただ今回はせっかくここまで来たんだから「ミャンマーに行ったことがある」と言うためだけの記念訪問のようなものだった。だがそれは嬉しい誤算に終わった。川一つ隔てただけで男性はロンジーという巻きスカートのような民族衣装を身に着けたり、女性や子供はタナカという日焼け止めを顔に塗っていて、ミャンマーらしさを人々の外見に見て取ることができ、土を踏んだだけのなんちゃって入国の割には十分に満足できるショートトリップであったかと。

ひだり みぎ
入国許可証的なパーミットを発行してもらえなかったのでドキドキだったが、ミャンマー側の出国管理局ではパスポートのスタンプを見せるだけですんなり出国完了。タイとミャンマーを隔てるサーイ川を渡ってタイに再入国する。


メーサーイの入管局にはX線探知機があるが、荷物を抱えた入国者も完全スルー。入管員もそもそも不正な密輸者を検挙することより携帯電話で遊ぶことに熱心なようで、いかにも怪しい大袋を抱えた現地人も見て見ぬふり。タチレクからメーサーイへの密輸は黙認されているのだろうか。

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