魅惑のミャンマー タチレイ(タチレク)中編

気の弱そうなトゥクトゥクドライバーによるタチレイ観光ツアーが始まった。タイ側ではチェンマイからメーサイまで豊かなプランテーション地帯が続いてたのに、ミャンマーに入ったとたん険しい坂道だらけで、山肌に張り付く集団墓地なんかも見えてくる。道路は一応舗装されているものの至る所に穴や段差などのトラップが張り巡らされていて、段差や穴を越える度に腰が浮き、着地をする度にケツを固い座席に打ち付ける。走行スピードは農耕機並みに遅いものの荷台には大したサスペンションもないので、これがジワジワと腰やケツに効いてくる。タイとミャンマーの国境争いの経緯は分からぬが、国力の差でタイ側が面倒な地域を強引にミャンマーに押し付けたのではと邪推してしまう程の不平等な差だ。

そんな悪路を行くトゥクトゥクは坂道を非力なエンジンを唸らせつつ、息急き切らせて止まりそうになりながらやっとの思いで坂を登りきり、第一の観光名所へと到着した。

●1つめのお寺
ひだり みぎ
降ろされた場所にはレトロチックなデザインの秀麗な建築物が威風堂々と建っていて、その重層的な屋根に施された細工が実に繊細で思わず目を奪われる。建築様式としても中央の塔から四方へ4本の棟が伸びているような造り(上空から見たら漢字の「十」のような形になる)で、明らかに通常の大座部仏教の寺院とは見てくれが異なる。聞いたらビルマ族とは異なる独自の文化とアイデンティティを持つシャン族のお寺だそうだ。このタチレイは麻薬王として名を馳せシャン族の独立の為に私兵を率いたクンサーの元根拠地であり、一時はミャンマーから分離独立してシャン邦共和国が建国されたという場所である。クンサー亡き今日でも国軍とシャン族などの少数民族武装組織の戦闘が断続的に続いてるようなので、シャン州に於いては未だに民族紛争の火種は燻ったままなのだろう。そりゃあ少数民族のビルマ化を推し進めてきた中央政府が「民主化しまっせ」と一言表明しただけで解決するような問題ではないだろう。

早速寺院を見て回る。
ひだり みぎ
欄間のような透かし彫りも細微で美しい。国境の田舎町にこんな荘厳な建築物があるとは想像だにしていなかった。


本殿に入ってみると、国境付近の喧騒とは無縁の静謐が支配する堂内に電飾煌めくご本尊が。ご本尊の前にはクリスマスのイルミネーションのような安っぽい電飾スダレが垂れ下がり、仏像の背後は宝くじ大当たり!みたいになっている。ケバケバしいのに妙にショボいという、なんともトホホな感性だ。


御本尊の裏側にも仏像が安置されている。安っぽいLEDの電飾がなぁ…シャン族の審美眼的にはアリなのだろうが、日本人的感覚からすると、なんとも外観と内部の印象落差が激しいお寺である。


もう一つの小さい方の仏堂ではシャン族(?)一家が寛ぎながら仏像に祈りを捧げている。正座を崩したような斜め座りをして三礼するというのがここでの参拝方法のようだ。

●2つめのお寺 シュエダゴン・パゴダ

続いて、タチレクのランドマーク的存在であるとされるシュエダゴン・パゴダへ。

ヤンゴンのシュエダゴン・パゴダと同じく金ピカの仏塔がぎらぎらの陽光を受けて眩しく輝いている。

清浄なる仏塔の周りは土足厳禁となっているため参詣客は手前で靴と靴下を脱ぐよう指導されるのだが、何かにつけてすぐ小銭を絞り取ろうとするのが貧しい国らしいところ。その靴棚にはしっかりと「2バーツ」と掲示されていて、集金係のおばちゃんにより手際良く2Bが徴収される。

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下足場の前では10歳前後とみられる幼女がお供えの花を立ち売りしており、紳士な観光客は笑顔で彼女たちから花を買っているが、特に興味のない私は見て見ぬふりをして一人でパゴダへと近づいていく…と、熱い!!!!!灼熱の日光に焼かれて鉄板の様に熱い境内のタイル、その上を裸足であちっあちちと飛び跳ねるように境内を歩いていく。足の裏を焦がされ踊り焼きされた海老の気持ちを味わいながらパゴダに近づくと、背後に自称ガイドのオバハンがピタッとついてきて、「あなたのお誕生日は何曜日ですか?」と問うてくる。あぁ、ガイドの押し売りか。

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金ピカの仏塔の周囲には八曜神が祀られており、参拝者は自分の生まれた曜日のご神体にお祈りし、自分の年齢の数だけ仏像に水をかけると良いそうだ。日本人で自分の生まれた曜日を知っている人なんて四柱推命を信じる人以外には余りいないような気がするが、タイやミャンマーでは知らない方がマイノリティー。知らないと言うとドン引きされること必至なので、旅行前に調べておいて損は無い。


仏像に水をぶっかけた後は、こちらの剽軽な人形が担いでいる鐘を3回鳴らすと幸せになるんだとか。但し、即効性は無いようで、数週間たった今でも平凡な日々を過ごしております。


鐘の奥に広がるタチレイとその奥のメーサーイの街並み。

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続いて見えてくるのはズラリと並んだ托鉢する坊さんの像。十数体ある像は一様に無表情で何ともシュール。


この托鉢中の坊さん人形の先頭では、同じ袈裟を来た僧侶が金ピカの仏様に向かってひれ伏して合掌している。こんなお祈りの仕方、初めてみたぞ。

ひだり みぎ

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シュールな仏像の見学を終え、本殿横の露店で木彫りの工芸品を買ってから次の観光スポットへと移動する。

●首長族の村落
ひだり みぎ
こちらは通称首長族で知られるアカ族の民族村。入村料を払って中に入るも、もぬけの殻。誰もいないぜよ。

ひだり みぎ
山の斜面を伝う階段を登っていくも、両サイドには土産物屋兼首長族の家屋が10件ほど並んでいるが、本当に誰もいない。何のために入村料を払ったんだか…とガッカリし始めた頃に見世物小屋のような建物が見えてきた。


近づいてみると、ダンスショーが丁度終わったところとのことで、お疲れーみたいな感じで演者が散り散りに解散するところだった。「そのタイミングで来ますー?」みたいな顔されたが、こっちからしたら「そのタイミングで終わりますー?」だ。

[youtube]https://www.youtube.com/watch?v=lQ9ycQcc86M[/youtube]
どんなショーだったのか興味が湧いたので後日検索してみると、4年前のものなので参考になるか分からないが、こんなんビデオが見つかった。酷かもしれんが、学芸会レベルにも満たない幼稚園児のお遊戯のようなショーのようで、首長族の御方にしては普通の首の長さのお姉さんがふてぶてしい表情でひたすら手足をパタパタさせている。うーん、これで140Bかーというのが率直な感想。

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仕方なく村の入り口に引き返していくと、ショーを終えたアカ族の演者たちが土産物屋の営業を再開していた。工芸品作ったり作った物を売ったり踊ったりと一人何役もこなしてるんですね。

何か買ってあげたかったが、シルバーアクセサリーだったりストールだったりと、アカ族との関連性を余り見いだせないものばかりが軒先に並んでいる。

で、ようやくみつけたアカ族ならではのお品が、これ。マグネット一個100バーツ。うーん。顔がリアルに掘られていて怖いです。でも他に目ぼしいものがなかったからなー。複数個買ったので、こちら、欲しい方がいらっしゃいましたら差し上げます。

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慌てて民族衣装を着てくれる子供。かわいいなぁー。


村全体には20名前後の人がいるようだが、本当に首長族と思われる方はこの悲しそうな表情をした女史一名だけだった。写真撮影には応じてくれたものの、見世物的に扱われている立場を恥じ、自分たちを珍奇な動物を見るような眼で見る私への抵抗感が含まれたような表情をされてしまったのが心に引っかかった。人間動物園ではないが、少数民族を招致した民族村がタイの山岳地帯に続々と建設されているそうで、人権団体やNGOなどがこれらの人工的な村々を建設する人間を弾劾し訴訟したが、タイの裁判所は違法性が認められないとの判決を下しているそうだ。そういやチェンラーイの山岳民族博物館でもそれらの人工少数民族村を政府による“搾取的観光”“少数民族輸入業”と批判していたわ。まぁそれでも少数民族の彼・彼女らも経済的事情云々で不本意ながらも自発的にこの村で生活しているだろうからな、結局は見せる側・見る側双方の意識の問題になるのだろう。見る側に於いては未開・野蛮・劣等な風習、愚かしいもの・同情すべきものとして人種差別的に少数民族と接するのか、それとも尊ばれるべき興味深い風習・伝統の担い手と見るか。見せる側で言えば、自分の文化に誇りを持って卑屈になることなく見せるかどうか。このような表情をされるとこちらも罪悪感を感じてしまうんだよな。

●4つめのお寺
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これがタチレクでのトゥクトゥクツアー最後の訪問地。何だか柔らかなパステルカラーの建物で、コミカルな像が並んでいる。Township Dhammayonという礼拝堂らしい。

ひだり みぎ
古刹のように厳粛でもなく、大座部仏教の寺院とは異なり金色がつや消しのように光らない。これも少数民族の礼拝堂なのか分からないが、なんかモスクっぽいんだよな、雰囲気が。

これにてタチレクの観光名所巡りは終わり。タイに戻る前に国境前のバッタモン市場を冷かしてタイへと戻ることにする。

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