アンコール王朝のルーツが見れるワット・プー

Honda WaveというASEAN仕様の100ccのカブを飛ばしてやって来たワット・プー。プーなんて脱力系の名前ではあるが、れっきとした世界遺産になっている。ラオス南部のタイ・カンボジア国境近くの山の中腹にあるこの遺跡の由来に関しては諸説あるようだが、今から遡ること千年以上も昔に、クメール人の王国・真臘によって建造されたヒンドゥー教大寺院跡という考えが定説となりつつあるようだ。当時はワット・プー周辺のチャムパーサックの地が下流地域の中心地であり、真臘はここを起点にインドシナ半島へと勢力を拡大していったので、ワットプーは言わばクメールの揺籃の地にあるアンコール遺跡の本家ともいえるだろう。因みにクメール帝国が滅亡した後には仏教の民ラオス人の国家ラーンサーン王朝が興り、クメールにより建造されたヒンドゥー神殿は上座部仏教の寺院へとリニューアルされ、今日に至るそうだ。まぁリニューアルというかヒンドゥー寺院跡に仏像をそのまま奉納しましたよ、みたいにな感じでヒンドゥと仏教が融合しているようなイメージか。

メコン沿いの公道を突っ走ってやってきたワット・プー。
ひだり みぎ
灌漑用貯水ダムや信者の沐浴に使われたとされる聖池の向こうに見えるリンガ山を背景に北宮殿と南宮殿が対峙し、山の中腹の木々の下にクメール王たちの神殿跡がひっそりと佇んでいる。こここからコーケーやベンメリア経由でアンコール都城へと続く“王道”の出発点ともなっているようだ。


東西600m南北200mの堀に満々と水を貯えた聖池に挟まれた道をリンガ山に向かって突き進む。


参道は山腹の神殿へとまっーすぐ一直線に伸びている。両側に立つのはシヴァ神の男根であり子孫繁栄の象徴であるリンガ。何十本の男根がお出迎えしてくれるお寺を卑猥ととらえるか、神聖と捉えるかは人それぞれ。

ひだり みぎ
カンボジアのプリア・カーンやバンテアイ・スレイの参道もワットプーに倣って設計されたのだろうか。


真正面にそびえたつ聖なる山リンガパルバータ(リンガの山)。シヴァ神の象徴・リンガのように大地を突き破り天空に向かってそそり立つような形のヒマラヤの聖山カイラースに似ていることからリンガの山と名付けられたのだろう。


卑猥(!?)な画像で申し訳ないがリンガにズームアップ。石灯篭かと思ったが、確かにリンガと言われればリンガに見えてくる。シバ神のエネルギーの象徴として、これ自体も崇拝の対象だそうだ。本場インドには更にリアルでグロテスクなリンガなんかも拝まれたりしているようだ。

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参道を進むと見えてくる宮殿跡。右側には北殿、左側には南殿が残されているが、保存状態は芳しくなく、修復中により中に入ることは禁じられている。とはいっても警備網が敷かれているわけでもないので、入りたければ普通に侵入できてしまいそうだ。

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北殿の側廊正面の破風には聖牛ナンディンに乗ったシヴァ神と妻のパールヴァティの像、その下の楣石にはガルーダに乗ったヴィシュヌ神の像が彫られている。これらは11世紀に増築された時に細工されたと考えられている。

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尚もリンガが立ち並ぶ歩廊を山に向かって歩き、第一の階段を上ったところから来た道を振り返る。参道や宮殿跡、チャンパーサックの大地が見渡せて、何となくクメール王たちの見た夢を感じれる気がしてくる。


階段を上った先の十字型テラスに立つドバラパーラ像。土着のクメール人たちは古来から精霊信仰・祖先崇拝・地方の守護神・地霊などの信仰を持っていたが、その神概念の間口が広く、インドから到来した神々と土着信仰の崇拝対象が途中で融合していき、長い年月をかけてヒンドゥー教の神々や仏陀までが何の違和感もなく土着の神々と同じ場所において崇められてきたというが、やはりここラオスのクメール寺院でも仏教とヒンドゥー教がミックスされているようだ。


尚も山腹に向けて石段の道を歩く歩く…聖池からは1Km近く歩いただろうか、足場の悪さは余り気にならないが、容赦なく強烈に照り付けてくる直射日光が相当に堪える。日影が無いので帽子と水の携帯は必須だと思い知ったが時すでに遅し。

ひだり みぎ
続いて更なる急こう配の階段が…しかも、いつから生えているのかラオスの国花プルメリア(チャンパー)の立派な根っこによって足場が一部崩壊しかかっている。ここで無念のリタイヤを宣言するアメリカ人とみられる白人多数。そしてデブの白人を励ますツアーガイド。「デーブ、もう少しだ!登りきろう!君ならできる!」。励ますガイドのラオス人少年の激励虚しくデーブ並びに他の白人爺はここで脱落。遥々ラオスまでなーにやってんだよデーブ。


最後の77段の階段を登りきった先の涼しげな木陰の中に見えるのはワットプーの主祠堂。駐車場からじっくり40分ほどかけてようやく辿り着いた主祠堂。疲れた分、喜びもひとしお。でも、同じ山岳寺院のプラヴィハーンやパノムルンと違って本殿が山頂ではなく30mほどの切り立った岩壁の前に建てられているのは意外だった。


人里離れた山の中の静かな密林にたたずんでいる感じが神聖な雰囲気を醸し出している。

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一部苔むしてしまっているが、連格子の飾り窓もアンコールワットを彷彿とさせる。

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主祠堂の柱にはドバラパーラや女神アプサラの像が細部まで丁寧に彫られてたり、左側の通路の楣石には3頭の象に乗ったインドラ神、右側の通路の楣石にはガルーダに乗ったヴィシュヌ神の浮彫が施されている。完璧にヒンドゥー寺院だが、内部では袈裟をまとった僧侶が仏像に拝み倒してるんだから面白い。


アンコールワットの女神の像にもよく似ていて、どこか人間離れした奇妙なクメールの微笑み。どこか不気味な感じがすると思うのだが、それでもクメールの微笑は人を引き付ける。クメールの王道をテーマとした小説を書いたフランス人作家のアンドレ・マルローなんかも女神像を盗堀して国外に持ち出そうとして逮捕されているし、現在でも金目当ての盗掘が後を絶たず、頭部が無残にも削り取られた女神たちにも会ったりする。これらの盗掘品はタイ経由で闇ルートにのって全世界の愛好家のもとに法外な高値で売りさばかれるようだ。

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まぐさ石のレリーフは深く彫り込まれていて保存状態が良く、しっかりとヒンドゥーの世界観が伝わってくる。3頭象のアイラーヴァタに乗るインドラ神(左)に毒蛇カーリアを退治するクリシュナ神(右)。

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主祠堂の中央に祀られた、とぼけたお顔の仏像さん。多民族により建てられた他宗教の神殿ではあるが、このほのぼのとしたご尊厳の仏像が残され人々の信仰を集めていたことで、ワットプーは破壊を免れてきたのかもしれない。


本殿の背後は絶壁の岩肌がむき出しになっている。岩の僅かな隙間なんかにもお供え物や宗教的な彫刻などがあって、ワットプー寺院を含めた山の空間全体が神聖視されていることが分かる。


向って左から創造神ブラフマン、破壊神シヴァ、維持神ヴィシュヌ神が岩に浮き彫りにされた三神一体像。

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主祠堂を出て山の麓に行くと崖のところに人が集まっている。この崖の聖泉から沁みだす聖なる湧水を汲みに来ているのだ。

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聖水を浴びたり飲んだりしてキャッキャとはしゃぐタイ人。飲み足りないのか皆さん持参した水筒に水を蓄えてお持ち帰りするようだ。


岩の間から滴り落ちる聖水。トタンの樋を通って石樋に貯められ、ヒンドゥー教の儀式でリンガに注がれていたようだ。


こちらは人身供養のための生贄の儀式で使われたとされる鰐石。岩のくぼみに生贄の体がはめこまれたのだろうか。

ひだり みぎ
圧巻は本殿前から見下ろす真っ直ぐに伸びた参道と、真っ青な空に白い雲の下に広がる潤いある緑のラオスの大地。広いメコンの大地や様々な王国が勃興した古都チャンパーサックの街並みが眼前に広がり、思わず往時に思いを馳せてしまう。


周りは静かで神聖な空気が流れているし、いくらでもぼーっとしていられる。ここからクメールの王道がアンコールワットまで通じていたなんてロマンのある話じゃないか。このロマンこそが遺跡巡りの醍醐味だ。

ひだり みぎ
ずーっとこうして遠くを眺めていたかったが、暗闇の中をバイクでパークセーに戻るのは危険そうなので、日暮までに切り上げることにした。

【ワット・プー】
開園時間:08:00-18:00
入園料:30,000Kip

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