キングオブ世界遺産 敦煌の莫高窟

この日、朝一で向かう先は、かの有名な莫高窟。莫高窟、その名をまるっきし聞いたことがないという方は少ないのではないだろうか。敦煌を代表する観光地、いや、世界を代表する観光地で、もちろん世界遺産にも登録されている。それも、当時、世界文化遺産の登録基準6項目全てを満たして世界遺産に登録されたというパーフェクト遺産・キングオブ世界文化遺産なのである。一つでも基準を満たせば世界遺産への申請資格を得る中で、全6項目をオールクリアしたパーフェクト文化遺産は世界広しとヴェネチアン・泰山・そしてこの莫高窟だけ、それほど格のある世界遺産なのである。

そんなパーフェクト遺産・莫高窟の造営が開始されたのは五胡十六国時代の366年頃、とある仏教僧が金色に光る神々しい鳴沙山の山肌に修行窟を開削したのが始まりだったとされている。その後、チベット族の吐番やモンゴル族の元など敦煌を支配する民族や王朝が変わっても莫高窟の造営は継続され、なんとシルクロード貿易が廃れる14世紀まで実に1,000年にも渡って彫り続けられていった。もちろん、時代や支配民族によってそれぞれの石窟の構造や彫刻様式・壁画の画題は異なっており、魏晋南北朝時代から元代まで、様々な文化・宗教・芸術が行き交い融合した敦煌の時代時代の美が莫高窟の石窟に凝縮されているのである。凄いでしょう。中国の仏教美術史が一か所で学べてしまう仏教芸術の聖地や砂漠の大画廊とも形容されているくらいだし、やっぱり中国の数ある遺跡の中でも莫高窟の重要さは群を抜いていると思う。

さて、当日朝、先ずは敦煌シルクロード怡苑ホテル前から12番の公共バスで莫高窟から14キロ程離れた莫高窟数字展示中心へ行き、莫高窟への入場券を買い求める。莫高窟に直接乗り込んでも入場券売り場はなく、内部には入れてもらえないので注意が必要だ。


莫高窟数字展示中心では莫高窟に関する10分程の短編映画を2本鑑賞することになる。映画の音声は中国語のみだけど、日本語の吹き替え音源が流れる専用イヤホンの貸し出しがあるので問題ない。映像クオリティも高いし、莫高窟へのテンションを高めるにはちょうど良い内容になっている。

ひだり みぎ

一本目は通常の映画館的な場所でシルクロードと莫高窟の歴史に関するドキュメンタリーを、二本目はプラネタリウムのような3Dシアターで石窟内部を再現した3Dドーム映像作品を見ることになる。この二本目の360°3D動画がまた臨場感・迫力抜群で、本当に当時の石窟の中に誘われた感覚になり、うぉー莫高窟万歳ー、莫高窟今参るぞーって気分が高まってくる。

ひだり みぎ
また、莫高窟数字展示中心では日本人ウケしそうな土産物が充実してる。今回は莫高窟の壁画や塑像が描かれたクリアファイルを購入しただけだが、他にもここでしか売られていない莫高窟モチーフのシャツ・財布・携帯入れ・マグカップ・栞なんかの小物が揃っているので、時間があれば土産物コーナーをちょいと覗いてみるのも良いだろう。


映画鑑賞後は、無料の専用シャトルバスで砂漠の中を10分程走って莫高窟へと移動する。

バスを降りると、山の断崖を全長約1,600mに渡って掘り抜き造られた石窟寺院がお目見えする。「石窟」というちょっとエロい響きはさておき、山崖に掘り込んだ洞窟状の宗教施設を造っちゃうとか、もうその発想が素晴らしいよね。世界史でも出てくるインドのアジャンターにも見られるように、もともとはインドの仏教建築様式だったのがシルクロードを通って伝わってきたっぽいけど。

この山には確認されているだけでも合計734の窟・総面積4.5万㎡の壁画・2,415の仏塑像を有するとされている。こんな大規模な寺院だけど、東西交易のルートが陸上から海上に移ったことで、敦煌も莫高窟も砂漠の中に埋もれ忘れ去られていたそうだ。それが1900年、5万点にも及ぶ文書や写本・麻布に描かれた仏画・古文書の巻物・漢語やチベット語などの文字で書かれた経典を保存した莫高窟が偶然に発見されたのだ。発見された文化財は主に4世紀から11世紀の物とされ、その題材は中古時代の百科全書と呼ばれるほど幅広く、歴史・地理・政治・軍事・医療など多岐に渡っている。

何故これほどまでに大量の文化財が山肌に造られた石窟に隠されていたのかという謎については諸説あるようだが、当時敦煌を支配していた西夏が中国西端カシュガルで興ったイスラム勢力・カラハン王朝の襲来を恐れて文化財を保護したとする説が有力であるそうだ。今も昔もって感じだな。
ひだり みぎ
水が凍結した大泉河に架かる橋を渡り、ポプラの林の中を少し歩くと牌楼の前に出る。


さぁ。いよいよ石窟巡りの一日が始まる…。ということで受信機が手渡される。耳元に装着すると、前方のガイドの説明が聞こえてくる仕組みのようだ。そう、残念ながらここでは自由気ままに参拝することができず、ガイド同行で、ガイドが選択した幾つかの石窟を30人程度のグループで回っていく形での見学となる。

ひだり みぎ
鳴砂山の東側の断崖に開削された幾つもの洞窟。高さは最大50メートルにもなり、近づいてみたら予想以上に迫力がある。


でも、なんかキジルの石窟より整備され過ぎてて、なんだか石造りのアパートみたいというか。


滲み出るアパート感。全ての石窟の入り口に部屋番号みたい番号がふってあって扉も設けられているし、中に誰か住んでると言われても疑わんぞ。

ひだり みぎ
窟内部の大きさやスタイルはそれぞれだけど、今回見て回った窟にはいずれも大小様々な塑像が安置され、窟の側面と天井びっしりに仏像・天女・飛天などの図案が精緻に描かれていた。内部の写真を撮れないのが本当に残念である。


こちらは莫高窟のシンボル・第96窟の九層楼。内部空間も大きく、中央には楽山・栄県の仏像に次ぎ中国で3番目に大きさな高さ35メートルを超える大きな弥勒菩薩の座像が鎮座する。きめ細かく岩を掘り、泥を重ね塗って造りあげられた超大作の塑像である。こちらの洞窟が開削されたのは888年、唐の時代まで遡る。自身を弥勒菩薩の生まれ変わりと主張していた当時の女帝・則天武后が造らせたらしい。確かに体系や顔立ちからは女性的な特徴が見て取れた。


一通りの見学が終わり、ツアー組とは離れて莫高窟のお隣にある敦煌石窟文物保護研究陳列センターを単独で見て回ることに。もう少し待てば日本人ガイドによるツアーもあったっぽいんだけど、中国人のツアーに紛れ込み説明の殆どは聞き取れんかったんで、あとは博物館の説明書き頼りだ。

博物館の内部では主要な窟の幾つかも再現されている。
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金色の荘厳な石窟から密教的な石窟・ヘレニズム的な石窟まで多彩さがウリの莫高窟だが、洞窟には時代によって様々な特徴があり、大まかに言うと南北朝時代・隋唐時代・五代十国時代・西夏時代という4時代に区切られるそうだ。

南北朝時代:中心となる大きな窟の壁に小さな修行用の穴が設けられる禅窟が造られ、壁画にはガンダーラ美術の影響を受けた西域の雰囲気を残す。
隋唐時代:石窟の全盛期で、絵画技術も発達。唐代に流行したふくよかな人物像など、中華要素の高まりが観られる。
五代十国時代:以前からある石窟のリフォームブーム。
西夏:チベット密教に関する芸術品が多くなる。

西魏時代に造られた第285窟に入ってみる。

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奥正面には3つの仏龕、左右に1m四方の禅定窟が4つという空間構造で、壁も天井も壁龕も空間のあらゆる場所が彩色された仏教壁画や装飾で覆われている。一つひとつの石窟が独自の世界観を表しているという意味では、それぞれが曼荼羅なのだろう。

続いて隋時代に造られた第419窟のレプリカへ。
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壁面に描かれた無数の仏に囲まれるように、1仏2菩薩2弟子の塑像が正面中央に鎮座。

いやー、壁画すげーってなる壁画フェチの方向けに博物館の一角が壁画コーナーとなっている。
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五胡十六国時代から元代に渡るまで1000年余りの民俗風貌と歴史変遷が表現されていて、壁画を通して中華文明の発展の歴史を追うことができる。

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庶民から貴族まで、宗教だけでなく、世俗生活の様子も表現豊かに描かれている。砂漠の単調な色彩の中に極彩色の石窟が無数に立ち並んでいるんだから、余計に神秘的に思えてくる。まさに砂漠の中の大画廊である。

いやー。ほんと良かったわ。これで生涯で行きたい場所リストの中の1箇所をクリア。次の中期連休は同じく石窟絡みで行きたい場所リストに挙げている洛陽でも攻めるか。

【莫高窟と莫高窟数字展示中心】

URL:www.mogaoku.net
営業時間:09:00-17:00
電話:+86 937 886 9060


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【2017年新疆・敦煌・西安旅行記】






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