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ムラピ火山博物館


カリウランのバス停で一人降ろされ、そこで拾ったバイタク運ちゃんの勧めるカリウランの見どころ巡りをする流れに。事前下調べ無しに来たのにトントン拍子で事が運んでいく。

バイタクが勧める第一の見どころとして連れてこられたのはムラピ火山博物館。

背後には噴煙かのようなモクモクとした入道雲で頂上を陰らせた雄大なムラピ山が聳え立つ。標高900m地点の麓から見る神秘的で壮麗なムラピ山の圧倒的迫力…何故この山が霊峰として古くから信仰の対象とされてきたのか分かる気がしてくるし、聖なる山、幽界への入り口に立っているんだとさえ思えてくる。力強くも美しい大自然の迫力とはこの事よ。


こちらが火山博物館のエントランス。ムラピ山をイメージしたかのようなピラミッド型の近代的建物が特徴だ。2009年のオープンで、翌年2010年に大噴火が発生したのは皮肉としかいいようがないが、博物館周辺は火山灰を被った程度の被害で済んだそうだ。

ひだり みぎ
館内ホールでは巨大なムラピ山の模型が来館者を迎え入れる。広大な裾野が広がる雄大かつ優美な独立峰であることがよく分かる。

ここでは展示スペースへ進む前に「ムラピの空の下で」という約20分間の英語字幕付きの短編映画が放映されている。ムラピ山にまつわる神話や山がもたらす恵み、今日に至るまでの大規模な噴火記録や火山観測チームの努力などがコンパクトにまとめられた短編ドキュメンタリーだ。轟轟と立ち上る噴煙の映像と共に「科学技術の進歩で噴火が予測可能となり、悪戯にムラピを恐れる必要はなくなった。」と観測チームのマネージャーが自信満々に強調していたのが印象的だった。

短編映画で予習をしたところで、いざ館内を巡ってみよう。
館内展示は「火山の成り立ちと構造」「ムラピの噴火履歴」「世界とインドネシアの火山現象」「火山と人々」といった幾つかのテーマに分けて説明されている。退屈な理科や地理の授業を思い出させる内容も多いが、実際にすぐ後ろに実際の火山がそびえているので、非常にリアルな緊張感を持って見学できる。


火山の定義は難しく幅があるが、環太平洋火山帯に属したインドネシアの火山の数は凡そ400~450で、そのうち活火山数は130程度とされている。日本の活火山数は86で国土面積から考えれば日本の方が火山の密度が高いことになるが、日本の活火山は北海道・九州・島嶼に偏在しているに対し、インドネシアの火山の多くはジャワ島・バリ島と人口密集地域に存在していることから火山の存在感は遥かに大きいし、実際にインドネシアの火山被害に関する悲報はちょちょくメディアでも目にしてる気がする。


ムラピ山も凶悪な暴れ山で、古代から噴火を繰り返してきた。


そんな凶暴なムラピに対し、人々は科学力を駆使して噴火予知のメカニズムを研究することで対抗する。火山の噴火は地震と違い明らかな前兆現象が見られるので、今では噴火は高確率で予知できるものだとされているそうだ。火山噴火の前兆現象としては、震源の浅い火山性地震、低周波の火山性微動、火口付近の急激な隆起、火山地下の電気抵抗の急減、地下水の温度上昇、火山ガスの化学組成の変化、地磁気の極端な変化などが火山活動活発化のサインとされている。

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ムラピの山を生活の拠点とする人々にとっては、普通にハザードマップ上で生活を営んでいる状態で、人々はいつ爆発するか分からない時限爆弾の上に乗っかって暮らしているようなもんだろう。それでも山の民はムラピの危険性を十分に承知の上で住み着いている。火山がもたらす肥沃な土地があるからだ。

しばしば火山が「巨大地下貯水池」と例えられるように、火山の噴出物による土壌は多孔質で軽く、通気性・保水性に優れていて雨を土壌に吸い取ってくれる。土壌に浸透した水はやがて地下水となり山麓で湧水となって湧き出す仕組みとなっているのだ。山自体が巨大な水槽タンクの役割を果たしていて、山麓の湧水が潅漑の為の蛇口となるイメージか。高所の田に潅漑を行えば、湧きだした水は緩やかな傾斜のお蔭で田から田へ流れていく。インドネシアの人口密度が高い場所と火山分布とが完全にラップしているのも偶然ではないのだろう。


こちらはムラピ型火砕流と呼ばれる火山の噴火タイプ。安山岩質の溶岩ドームが崩落し、爆発的に解放されたガスとそれによって形成された破片が混合して出来た火砕流が猛スピードで斜面を下る。退避する時間も無く火砕流が傾れこんでくるのでタチが悪い。


2010年の大噴火は酷かった。火砕流の通過域が消失・埋没し、一面焼野原になっている。火砕流の流下速度は最大で時速百数十km、温度は数百℃にも達するというから身の防ぎようがない。特急列車なみのスピードで、全てを飲みこみ焼き尽くしながら山腹を流れ下りていくとか、恐怖以外の何物でもない。

ひだり みぎ
ムラピ山の南側麓にある山村。家屋が完全に埋もれてしまっている。


サイエンスホラーの世界だわ。


上空への噴煙もまた凄く、吹出された煙は高さ3.5Kmまで達したことから遠くジャカルタでも計15航空会社の50便が運航見合わせてとなったそうだ。富士山の宝永噴火でも約100km離れた東京まで火山灰が降り注いだと語り継がれているが、2010年度に発生したムラピ山噴火では400Km離れた西ジャワ州ボゴール近郊などでも降灰が観測された。


昨年9月の御嶽山の噴火と同様、火山の爆発的な噴火で火山弾や火山岩塊も空中に放出される噴石による被害も甚大だった。こんな巨大な岩塊が初速100m/sで噴出され飛散するんだから恐ろしい話。

ひだり みぎ
火砕流の中から見つかったオートバイや、火山灰を被った日用品の展示なんかもある。樹脂の外装は完全に溶け落ちてしまっている。

DSC_8810
こんな恐ろしいムラピ山であるが、人々は火山に対して畏れを抱きながら同時にその恵を知っていて、平野に裾野をなびかせて聳える容姿の美しいムラピ山を霊峰として崇拝の対象としてきた。火山への畏怖に加えて恵への感謝が結合した結果であろう。アニミズムに繋がる一種の山岳信仰である。

入場後に見た短編映画で「火山の噴火は大変だけど、同時にムラピからは掛け替えのない恩恵も受けてるからね。まぁ噴火したところでムラピを恨みませんわ。」みたいな言葉が出てきてたけど、火山の噴火も運命と受け入れて火山の麓で生活する山岳民族の覚悟みたいなのが強烈に印象に残った。2010年の噴火時にも山の番人的な長老が最後まで麓に留まり、山との対話を通じて”山の怒りを鎮めようと”して命を落としたらしいし。“野蛮”で“非科学的”な信念から退避せずにミスミス命を失った人に対して冷ややかな世論の声もあったようだが、「山が怒って噴火したならしょうがないっしょ。それが山の民の人生たるもの。」という山ありきの“潔い”人生観、尊敬できる立派なものじゃないですか。

【ムラピ火山博物館】
入場料:5,000ルピア。別途、ムービー鑑賞代金5,000ルピア。
営業時間:08:00-15:30
定休日:月曜

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